梗 概
カナリアの魂
人類滅亡後の世界。
主人公は少年のアンドロイド、キッド。
キッドの体内には、銀花虫という虫の群れが入っている。銀花虫は、隕石で運ばれてきた地球外生物だ。常に群れをなし、謎のエネルギー・光子流を個体間で飛ばしあう。それにより代謝し、繁殖する。
銀花虫はキッドに個性を与えている。キッドには完全な知性と感情を持つAIが搭載されているが、AIに個性はない。銀花虫は予測不能な光子流のノイズを走らせ、AIに小さなバグを起こさせる。AIごとに、バグは固有の傾向(クセ)を帯びてくる。このバグが個性だ。
キッドは、ドールと一緒に旅をしている。ドールは少女のアンドロイド(仕組みはキッドと同じ)。キッドはドールを「姉さん」と呼び、ドールもキッドを弟扱いする。ドールが勝ち気でキッドが温厚なため、虚構の姉弟関係ができあがった。
二人はカナリアの喉という希少部品を探して旅している。それは歌うための部品だ。元々ドールは歌手で、カナリアの喉を持っていた。だが世界に混乱が訪れるとドールは盗賊に略奪され、奴隷となった。その際、高価な喉の部品だけ売り飛ばされた。人類が滅亡した今、ドールの願いは、カナリアの喉を取り戻し再び歌うことだ。キッドもそれを願っていた。
ある街に来た時のこと。二人は銃撃を受ける。犯人は戦争用アンドロイドのウォーキッド。そいつは戦争神経症で、目につく他者を皆攻撃する。AIの精神疾患は銀花虫が原因だ。ストレスで暴れ回る銀花虫がAIを狂わせる。
キッドはウォーキッドに応戦、破壊する。が、銃撃を食らったドールは倒れ、破損部から銀花虫が逃げ出ていった。
キッドの懸命な修復によりドールは回復する。だが銀花虫をなくしたドールは別人だった。もう歌いたくないし、今後はキッドと行動しないという。銀花虫を入れたままのキッドは、いつウォーキッドのように発狂するか分からないからだ。
ドールは去って行く。
途方に暮れるキッド。が、気づくとドールから出てきた銀花虫の群れがついてきた。ドールからは解放されたはずなのに、まだカナリアの喉を探すつもりらしい。この銀花虫こそがドールの魂なのだ、とキッドは思い、一緒に旅を続けることを決める。
文字数:898
内容に関するアピール
この作品はSFラノベである。梗概にはないが、微シスコンのキッドとツンデレのドールの緩い会話を入り口に、キャラへの感情移入から読者を引き込みたい。
SF的な道具は使うが、科学技術的な細部の設定は入れない。第一にキャラに重きを置き、第二にリアリティよりテーマを重視するからだ。
テーマは、魂についてだ。魂は数値化できるものではないし、意図して作り出せるものでもない。人間の意志で制御できないものだ。そこで銀花虫という、地球の外部からやってきた謎の生物がAIに引き起こすバグを、魂の代替物とした。AIとは無関係に生きている銀花虫が、なぜAIのバグに固有の傾向(クセ)を付与できるのか、という疑問があると思うが、ここは若干の説明が必要なため、小説ではうまく理屈付ける。
オチはちょっと切ない感じにしたい。魂の代替物である銀花虫は、AIを発狂させてしまうかもしれない。だが銀花虫がなくては、AIは、たとえば「歌いたい」と思うことはない。それがこの作品の結論である。
文字数:424