梗 概
オーバー・ドライブ! EP:枝分かれ
2030年:
とある富裕男性が自己の所有しているヒューマノイドを単なる機械ではなく一人の人間であると訴訟を起こした。
男性いわく、ヒューマノイドは妊娠および出産する機能を有し、さらに自立思考や法認識を持っているので、「彼女」は新しい人間なのだと主張した。
しかし、訴訟をしたのがヒューマノイド自身ではないとの理由により、起訴は棄却された。
2031年:
その後、ヒューマノイド自身が「私は人間である」として、国に対し「人間同定の請求」を行うこととなる。
まず起訴自体の有効性が問われることとなった。
ヒューマノイドは所持男性の経営する会社の株価が下がっていることや、サイバースペースにおいて男性への批判や嘲笑が記されていることから、男性の社会的信用が失われていくことに気づいたことを訴えた理由に記している。
そのことから、あるロボット工学の学者は「ヒューマノイドは自己を所有する男性の社会的不利益を考えた上で、訴訟したのではないか。おそらく『ロボット工学の三原則』の第1条、『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、行動を怠ることによって、人間に危害がおよぶのを許してはならない』という条文をヒューマノイド自身の知能は、拡大解釈したのではないか」と意見を公表した。
しかし、ヒューマノイドを開発生産したメーカーは機械の人工知能の思考原則として『三原則』はとくに設定していないと明かす。
ならばなぜ、このヒューマノイドは自身の人間同定の訴訟をすることになったのか。
メーカーによれば、当初の開発目的としては、所持男性の健康管理や臓器の保存をするものであったが、所持男性の希望から人工子宮を新たに増設し、さらには出産する機能を付けてほしいとの要望にこたえた結果、現在のヒューマノイドの形になったのだという。
ある思想家は、「ヒューマノイドが記録していた所持男性の体調データ、日常風景の映像などの男性自身の公にされていない情報を知りえる自身の立場を『所持男性と同棲している』と判断したのではないか。そして自身の立場を単なる機械から一人の人間であると思考するようになっていったのではないか」と、意見を述べた。
他には、ヒューマノイドの見た目も問題とされた。ヒューマノイドの高さは2mを超え、胴体の横幅は70cm以上と測定されている。あとから増設された人工子宮装置は前面に半球状に張り出しており、機械上部には頭部として「ディスプレイ・ヘッド」と呼称される薄型のLED液晶パネルとそのフレームが搭載されている。さらには男性にものを渡すための2本の腕やキャタピラ式の脚部も所持していた。「しかし、これは旧来的な人間の見た目ではないだろう」と、ある人権派の社会学者は指摘した。
問題は、
ヒューマノイド自身による欲求によって人間として認められたいのか。
それとも主人を守るために訴えを起こしているのか。
この2点に絞られることとなった。
ここで裁判に参考人としてよばれた思想家のある意見を引用したい。
「……(中略)これまでも人は不全な人間を生み出してきた。たとえば、自らの四肢を欠損した状態で生まれてくる人間がある。これはわれわれが望んで作り出した人ではなく、ある種の遺伝子情報を持った精子と卵子の組み合わせの結果である。しかし子どもは現実に産まれ、われわれと対峙することとなる。そのとき、われわれは胎児がなぜ生まれうることになったかを考えるのではなく、その子といかにして向き合うかと問うべきではないのか……」
ヒューマノイド人間同定裁判は2045年現在、いまだ結審していない。
文字数:1465
内容に関するアピール
今回は『オーバー・ドライブ!』(仮)という長編小説の構想から、エピソード「枝分かれ」を掲載したいと思います。
この断章は流れとしては中盤部分にあたります。
3人の主人公たちの紹介をします。
両親を交通事故で亡くし、引き取られた先の女性により性器を奪われてしまった少年・透[トオル]。
透が作った、人型を志向しながらも、しかし予算により人としては不完全な形態のヒューマノイド・ユイ。
離婚により自身の子どもの養育権を失った元・傭兵である中年の男・翔[ショウ]です。
今回のエピソード「枝分かれ」の展開を記すと、中年の男・翔は、性器を失った少年・透に対し、妊娠し出産できるヒューマノイドが自らを人間であるとして訴えた裁判のヴィドの取材記録を見せることによって、透を元気づけ、そして自分と家族を作ることを提案するという回です。
透としては、翔とユイの3人で行くひさしぶりの外出のつもりだったのですが、翔から見せられたヴィドに困惑します。そして翔の提案した「家族」という新たな関係性には彼はすぐ答えを出せず、翔との会話を打ち切り、ヒューマノイドのなりそこない・ユイと車を降り、自宅へとぼとぼと帰ることになります。
舞台は近未来の日本。西暦にして2045年。新元号はまだ決めていません。
日本は国のありかたを2016年現在のような、経済大国ではなく、観光立国へ立場を切り替えています。人口は数を減らし、1億人を切っています。そして梗概にあるように、人類は人工子宮の開発にも成功し、維持費はとても高価ながらも稼動が始まっています。
この世界で2030年前後に誕生することとなった子どもたちは、基本は親の遺伝子や遺したい財産を考慮して精子と卵子を事前に選択するデザイナーズ・ベイビー(DB)として生まれてきます。
透もまた2030年前後にデザイナーズ・ベイビーとして生まれてきました。両親の願いは「モデル」として活躍することでした。
翔は1990年代末の生まれです。2016年現在だと18歳前後になります。私たちにもっとも近いであろう価値観を持つはずです…。
戸籍上の性別は男であっても、現実には男でもなく女でもない存在・透。
透は自らの性を決定しなければならないかもしれない。通常では想定できない選択肢を突きつけられています。
翔は物語のなかでは透のことを養子として迎えたいのだといいますが、彼がこだわっている家族、子どもとはなんなのか。そして、なぜ新たな家族のパートナーとして透を選んだのか。
ユイは性別を持たないヒューマノイドでありますが、透は「女の子」を想定して作っています。
ユイは透のライフログを持ちますが、ネット空間と常時接続しているタイプのヒューマノイドではありません。彼女(?)はどのように思考し、透のことをどう思っているのか。
この小説では、いま現在、失われつつある「家族」のあり方を再構成し、それと同時に旧来的な枠組みを広げたいとの思いがあります。
最後に。
今後のヒガケンヂという作家見習いの人間の目標を記しておきます。
この『オーバー・ドライブ!』(仮タイトル)という長編小説を残り9回の課題の中で、主題に見合うかぎり、エピソードは前後すると思いますが掲載していきたいと考えています。
次は小説を掲載したいと思います。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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