梗 概
ドラゴン日和
街道沿いのコンビニエンスストア、その広大な駐車場の中ほどに立つ欅の巨樹。その周りに集まるスマートフォンを手にした老若男女。ざわざわと得体のしれない期待感が充ちている。今日ここに現れるのは小さくてすばしこいパープルドラゴン。これだけの人数であれば倒すのが難しい相手ではない。
相川正斗のバディは、かなりレアなシルバードラゴン。生まれたばかりのころはみすぼらしい灰色で、何度もリセットしようと思ったが、次第に馴染んできて、大切に育るようになった。幾度かの進化を経て見た目も美しく変わり、そしてその強さが最強クラスであることに、相川は今更のように気付き、ちょっと誇らしくなる。こいつはあいつの生まれ変わりだから、俺たち二人がそろえば最強だからと、子供じみた思いを浮かべ苦笑する。
スマートフォンの画面にはARゲーム『デイズ・オブ・ドラゴン』、本格的にゲーム内通貨と現実の貨幣との交換を始めたアプリが常に立ち上がっている。ゲーム内で得た通貨、ディグを、実際にそのまま提携先のコンビニ等での買い物に使うことが可能だ。
レアなアイテムは『市場』にて高額で取引される。そしてそのディグについては、同じ貨幣単位を用いるほかのゲーム内でも使用され、そして世界中のあらゆる国々が、その国の貨幣との交換を許すようになった。現在最も多く取引されている仮想通貨がディグである。投機目的でドラゴンを買い、ゲームを進める者も多い。だが相原はそれは世界についての侮辱だと思う。ゲーム世界の方が、自分にとってはよりリアルだったからだ。
その時まで。
ゲーム世界を司るAIにより、シルバードラゴンの解体が画策される。あまりに強くなり過ぎた個体の存在がゲーム世界のアンバランスを産み、ひいては世界の富が集中する可能性が高まったのだという。相原のシルバードラゴンがほんの少し戦うだけで、莫大なディグがカウントされるのだ。
現実世界で傭兵めいた者たちに拉致され監禁される相原、ゲーム世界でなすすべもなく攻撃を受け続けるシルバードラゴン。その姿が朧に霞んでいくその時、相原は覚醒し巨大な鉄色をした蜘蛛となる。
うん、先輩だったんだ。俺が中一の時、3年で、すっげーパンクな人だった。あの人に憧れてバンド始めたよーなもんでな。そのメンバーが心臓の病気かなんかで亡くなって、その時刻とその同じタイミングであのドラゴンと出会ったんだと。冗談のように生まれ変わりだって言ってたけどな。なぁ、須田、できるだけ苦しまないようにしてやってくれ。あの人は何一つ悪かないんだから。
いい天気だ。
住宅街の真ん中の、このちっぽけな公園には人の声もない。
降り注ぐ陽光の音さえ聞こえるような、
そんなドラゴン日和。
文字数:1126
内容に関するアピール
AIだの仮想通貨だの、割と身近に聞こえる言葉でその実何も知らなかったりするので、ちょっと調べただけで、何それSFじゃーんとなって、テンションが上がった。
2期の時も最初にいろんなことを考えていて、たとえばすべてに猫を出そうだとか、その名前はマーカスだだとか、結局初っ端で猫云々の話が講師の方から出てきて、ありふれてたのかと思い断念。今回は、一つの世界設定でどれだけ書けるかに挑戦してみる。
せっかく思いついたキャラなので大事にしたいと思うのだ。
文字数:220