梗 概
万物照応 Les Fleurs de Correspondances
=用語=
① 小姫
能の小姫面とウィッグをつけた幼い猿。(小姫が面に複素ニューラルネットワークをインサートする第Ⅲ章で小説は無人称から三人称へ変化する。)
② ブックマン
顔面に本型デバイスをつけたアンドロイド。非常に多様な個体差があり、それぞれがコンプレックスを抱えている。発電所の従事者で黒い作業服姿。
③ 寄居虫
小面型デバイスを背負ったヤドカリ。個体の知能は低いが、群知能の創発的特徴が顕著に表れる生物で、海中に異様な土の城を築く。
④創造主
Ⅳ章の終わりで姫出が出会う老人。フードを深くかぶっており顔は見えない。
人間か、そうでないかは不明。
I
人々が住めなくなってしまった街がある。入り江は豊かな海をたたえ、無人の街の奥には巨大な森がある。海岸では発電所が静かに稼働している。
一匹の幼い猿が浜辺で拾った小姫面をつける。
発電所にはブックマンたちが働いており、小姫は彼らの振る舞いを真似はじめる。
II
小姫はブックマンの一体と恋に落ちる。発電所の仕事を手伝うことになり、それぞれの個体が抱える悲しみが明かされていく。
巨大樹の森や寄居虫たちの海には、自然の荘厳な美しさが溢れている。
『あらゆる現象が相互に深く関係し合っている。』
Ⅲ
海へ入り面が外れたところを見られてしまった小姫は、ブックマンに面をつけてもらう。その際、彼らと同様に自分の面にも複素ニューラルネットワークをインサートされる。
寄居虫たちの死骸、海の城(寄居虫たちが群れを成して造る複雑な海中の城)の崩落から、物質はいずれ朽ち、命は死と再生の精密な補完であることを学んでいく。小姫は巨大樹の森を越え、自身達の知能の根源である〔面〕を作り出した創造主の元へ向かう。
(ここで創造主に会えたかは明かされない。)
Ⅳ
森の向こうから帰還した小姫は想い合っているブックマンに、あなたの面を外してみたい、と告げられる。海で見た猿の顔が、彼には強烈に印象に残っていた。彼らは人間という動物を模して造られているからだ。彼は生きた人間を見たことがなかった。
望み通り、小姫はブックマンに面を外させる。ブックマンは小姫に面をつけては外し、面をつけては外しをくり返す。
そうして小姫も、ブックマンの面を外してあげよう、と考える。
しかし面を外すと、ブックマンはもう二度と動かなくなってしまう。
Ⅴ
面を外した小姫は猿にもどり、やがて動物としての死が近くなっていく。創造主との邂逅を思い返す。
猿は自分が生まれた時の夢を見る。
生まれたばかりの猿は、人間の大人に非常によく似ている。
腐っていく猿の体を、寄居虫たちが海や森へ運んでいく。
生まれてからこれまでに目にした世界の総ての存在が、驚くほど複雑に関わり合いながら存在していることがわかる。
猿の体は世界のあちこちへ運ばれていく。
①
②
③
文字数:1194
内容に関するアピール
この春まで、MITメディアラボのResisting Reductionというコミューンでシンギュラリティについて執筆をしていました。リサーチからは、日本のシンギュラリストはいささか還元主義的で、AIによって世界の問題を管理、解決できると考えている人が多いことがわかります。
しかし、現実はそのように単純ではありません。
寧ろ人類の文化や社会、知性や心が、容易には再現できない複雑で豊かな深淵を持っているということは、非常に価値あることだと私は考えます。
小説は、そのような豊かな深淵を持つ人々のためのものです。一文字に染み込ませた一滴の血が、届くことを祈っています。
私は恥ずかしい愚かな小説を、精一杯書いて、くそみそに言われなければなりません。
そして15年以内に、世界でトップクラスの作家になります。
どうか、力を貸してください。
All image:Pierre Huyghe-Máscara Humana
文字数:395