梗 概
果実の冒険
猛烈な暑さで人も機械もバグり、大型の蟲(バグ)が飛ぶ、熱帯化した近未来の東京。クラシカルな露店が並び、肥えた宿無しが徘徊するジャンクな市場の果てに食品会社ミミゴエフーズの研究施設「熱帯城(グリル)」が聳え建っている。
熱帯城は南半球の食材を収集しており、ある日、契約するAI未踏地調査団の誤認証により「食べ物」と報告された赤子が発見される。赤子は生白い男の子で、新種の巨大果実の中で眠っていた。報告通り「食べ物」カテゴリとして熱帯城に引き取られた赤子は便宜上タロウと呼称され、「果実から生まれた子供」として寂れた託児室で育つ。
熱帯城は腐敗しており、実労働のほとんどをAIが担い、人間の研究員は皆頭がおかしくなっている。不運なタロウはひときわ頭のおかしい城主・耳越の直轄グループの研究対象となり、膨大な検査と非人道的な実験を受ける。タロウは特殊な体質を持っており、肌から甘い蜜を分泌し、体内で小さな果実を作り排泄する。
月日が経ち推定十歳となったタロウ。タロウが生む果実は成長と比例して少しずつ大きくなり、濃密な蜜を生み、食製品に加工され売り出される。幻覚作用と中毒性があり、表でも裏でもヒットする。心身の発達が果実の質に影響することがわかり教育を受け、ノルマを課されるが待遇は良くなり、自由もある程度与えられる。外出は禁止され、タロウは熱帯城の中を冒険する。
フロアの回廊に群生する毒茸、蟻の巣型の七つの胃を持つAI、胃痛や頭痛でのたうちまわる研究員たちの試食会など、めまぐるしい悪夢のテーマパークのような光景は恐ろしく、楽しくもあった。そのうちタロウは派手な外見をした少女型の通訳AIダミーと友達になる。ダミーは好奇心旺盛で、珍種のタロウを質問責めにしたり、外の世界の事を教えてくれる。
ある日、歯型の味覚デバイスを手に入れたダミーはタロウの果実を食べてみたいとしつこく頼む。しぶしぶ渡すと果実を噛じったダミーの様子がおかしくなり暴れ始める。タロウの果実はAIの機能を乱す猛毒だった。周囲を破壊し尽くした後、ダミーは警備システムにスクラップにされる。タロウの育児チームの一人である研究員の芦原は衰弱したタロウを熱帯城から逃がそうとするが、耳越に露見し芦原は処分され、タロウには人も機械も近寄らなくなる。
タロウの果実は体内で腐り排泄されなくなる。タロウは独房サウナに収容され、蜜を採取するだけの装置となる。大量のヘドロ肥料を流し込まれ体中から蜜を垂れ流す日々に無感動になった頃、耳越がやってきて新商品を披露される。タロウ似の粗雑なクローンで果実は生まないが甘い汗を掻く「飴」だという。用済みだと宣告するように耳越はその場で飴を平らげる。
タロウに異変が起きる。口からどろどろの果肉が溢れてからだにまとわりつき、タロウを包む巨大な果実を形成する。果実の夢の中で、タロウはダミーと会う。タロウはダミーに言う。「変なもの食べさせてごめん」ダミーは否定し、タロウの生む果実はAIをパターンから解き放つ「機械を人間にする果実だ」と言う。タロウは生まれて初めて目から蜜を流す。
タロウを包む果実が膨張し急速に熟れて弾ける。サウナの熱風孔から匂いに誘われた無数の蠅や蛾が集まってくる。果肉を食い蜜を啜った蟲たちは熱帯城中に拡散して機械や人間の中に入り込みバグを引き起こす。サウナの電子扉が誤作動を起こして開く。タロウは腐り崩壊していく熱帯城の狂騒の中を外の世界へ向かって歩いていく。
文字数:1434
内容に関するアピール
AIが人間に近づいていくものだとすれば(一部追い越してますが)、人間が機械に近づいていき真ん中で出会うというイメージがまず思い浮かびました。AIは人工物なので反対の生々しいものと組み合わせたいという思いがあり、AIからの連想で引っかかるワードをつまんでいき、機械、冷たい、反対のもの、生物、暑い、熱帯化、南国、果物、虫と芋づる式に要素を足していきました。講座第1回ということで自己紹介的な意味も込めて好きに書きたい、とあれもこれもぶちこんだ結果、当初の構想からずれ続け、課題から遠ざかろうとする物語を強引に引き戻し続け、闇鍋のような話になりました。舞台が熱帯なので、雑多な雰囲気は出ているのではと思います。力不足を痛感したので、講座で磨いていきたいです。
文字数:327