梗 概
愛の見分け方
2050年、「あなたは人間を模した人工知能と人間の区別がつきますか?」と銘打った番組が人気だ。挑戦者は、身近な人に模した人工知能搭載のクローンロボットと、本物とそれぞれ一緒に過ごし、見事人間を見分けることができたら、多額の賞金を獲得できる。もはや人間とロボットの区別はつかなくなっており、見分けられるか否かは、運に近い。賞金目当てで参加した男性が、家族に気づかず、模した人工知能を本物だと宣言し、離婚騒ぎになる等、ゴシップネタにも事欠かない。
ミナは友人のカケルを、番組に出ないかと誘い、カケルは軽いノリで承諾する。ミナは密かにカケルに密かに思いを寄せていたので、検証中に二人で一緒に過ごすことがデートのようで嬉しかった。
カケルは本物のミナを当て、二人は賞金を手に入れる。ミナが賞金の使い道を相談しに、カケルの家を訪れると、カケルは、ミナにそっくりのminaと暮らしていた。カケルは賞金で、番組で作ったミナのクローンロボット”mina”を買い取ったのだ。カケルは、minaに恋をした、と申し訳なさそうに告げる。ミナは、カケルのことを好きだと告白するが、カケルは本物のミナではなく、minaが好きなのだ、とミナを振る。
傷心のミナに、minaがアクセスしてくる。番組中の情報量だけでは足りなく、追加の情報が欲しいと言う。ミナは恋敵のminaを追い返そうとするとも、minaは「カケルのためではなく、ミナを思っての行動だ。あなたが好きなカケルが幸せになるために、私は尽くす。あなたの為にも、カケルの側にいるのは、他の女の誰でもない、ミナでありたい」と。ミナは結局minaの言われるままに、データを提供する。
番組から、ミナの元にカケルのクローンkakeruが送られてくる。ミナはkakeruに恋心を感じない。ミナの友人ハヅキが、kakeruを捨てることを勧める。「いいか、そいつは人間じゃない、スクラップの海に捨てろ。そして捨てるところを最後まで見届けるんだ。嫌だとか死にたくないとか言わせてもいい。苦しんでいても絶対に助けるな。そうすれば君はカケルのことを忘れることができる」
ミナは、町外れの酸の海へkakeruを捨てに行く。kakeruは静かに海に溶けて行く。ミナはそれを見て涙を流すも、スッキリし、カケルのことは忘れる。たまにkakeruを思い出し、海に花を手向けに行く。海にはいつも、必要とされなくなったロボットが捨てられている。
ある日、ミナはminaが海に流されていることに気づく。カケルは結局飽きて捨てたのだろう。ミナはminaに向かって思わず叫ぶ。「あなたは私でしょ! 死なないで!」minaはミナの声に反応し、泳いで戻ってくる。minaは「私たちは死ぬことはない。また、あなたでもない」と告げるも、しばらくはあなたが呼ぶからこの姿でいる、と、minaはミナと二人で暮らす。
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内容に関するアピール
“人間と間違えうるくらいに模した“人工知能を前にしたら、きっと人間は鏡で自分を前にするように、自分のことで思い悩み、そして人間自身の認識機能の不確かさに揺るがされるのかな、と思いました。
人間が勝手に思い悩んでドツボにはまって、こんなことに執着するなんておかしいのじゃないか? 何故この人を好きになったのだろう? 何故諦められないのだろう?と言う思いと、そんな人間の葛藤や苦悩には、全く我関せずなAIの少しズレたやり取りを面白く描ければ、と思います。
対象が人間であれ、人工知能であれ、何であれ、他人のことを分かることはきっと最後まで不可能で、ただ自分が、他人を(もしくは自分を)愛している、と言う主体性を持った認識を行うことが人間の特徴である、ということも描きたいと思います。
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