梗 概
AI男優
アダルト業界もAIを利用する時代になった。
最初は女優風に仕立てたアンドロイドをアイドル女優のように扱う話題性先行のネタ企画だったが、視聴している層から「女優がアンドロイドでは抜けない」という意見が多く、男優をアンドロイドにした。
女性型のアンドロイドは慰安用途のものが安価に市販されていたのでほとんどそのまま撮影に使えたが、予算内で購入できる男性型のものは警備用途だったため、カスタマイズに手間取った。
「男よりアンドロイドの方が気持ちいい」という謳い文句も好評となり「AI男優」というジャンルができあがった。人工知能によって失業、または自分の職を脅かされつつある男たちにとっては、まるで自分の愛する女が略奪されたような自虐的な興奮があった。
AI男優によるアダルトビデオを売り上げたプロダクションは、いくつか作成したインドアな作品からアウトドアな企画をすることでより現実的な不安を視聴者に与えることが次なるヒットにつながると考えた。
プロダクションから「ナンパもの」の企画の相方をやって欲しいと言われた俺は、悩んでいた。AI男優は美しく、高身長で筋肉質な体つきで、顔立ちは人気俳優のいいところをかいつまんで作成されている。容姿が平凡なAV男優の俺は、「男よりアンドロイド」の「男」のほう。つまり、主役を引き立てるための存在であることが明白だった。
ナンパ「もの」といえど、実際に外で声をかけ、ある程度ナンパを失敗してから用意していた無名女優を登場させる。違和感なくナンパ部分をこなすにはスムーズな会話と、男同士の軽快なコミュニケーションが不可欠である。プロダクションに確認すると、前日にAIと打ち合わせを行い、コミュニケーションをとってもらうことになると回答された。
それなら、と俺は考えた。女優との絡みの部分ではビジュアル的にアンドロイドに分があるし、監督の前でやたらと出しゃばるわけにはいかない。しかし路上ナンパの部分では大抵の場合、リアリティを求めて男優自身が安価なスマートフォンで手持ち撮影するため、監督がいちいち口出しすることが難しい。つまりそこで唯一俺が優れた男優であることを見せつけることができる。そうすれば今後続くであろうAI男優のアウトドア企画で何度も仕事の依頼が来る。
プロダクションに出演することを伝え、AI男優との前日打ち合わせを終えた俺は、路上部分での撮影が彼のアイカメラで撮影されること以外は全ていつも通りに進んでいることで安心した。あとは明日喋りパートで勝負すればいい。撮影前日のルーティンである滋養強壮剤と興奮剤と睡眠導入剤の一気飲みをし、ぐっすりと眠った。
当日、張り切ってナンパしていた俺の隣で撮影しつつ傍観していたAI男優が警備モードに。警報が鳴り、条例違反で逮捕された。撮影していたAI男優のカメラが証拠となった。
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内容に関するアピール
AI男優っていう言葉が頭から離れなかったので書きました。
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