梗 概
嘘つきAIと仮想未来
西暦2050年の日本。
キャッシュレス時代で誰も紙幣や硬貨を見たことがない。
そして、中央銀行が発行する通貨の価値は大暴落。人々は資産のほぼ全部を仮想通貨に置き換えていた。
数ある仮想通貨の中で一番人気の仮想通貨JVM(Japan Virtual Money)は、ある人物が開発したAIが自動発行しているらしい。その人物が誰なのか知る人はいない。
AI技術が発達して人々は生活支援をしてくれるパーソナルAIを所有するようになっている。
サトルは何度目かの深いため息をついた。
サトルはパーソナルAIの「この仮想通貨は絶対に儲かる」という言葉を信じて、その仮想通貨を大量に購入した。ところが今日になって、あっという間にその仮想通貨の値が下がってしまった。サトルは一文無しになってしまう。サトルは借金の返済のために金が必要だった。
サトルのパーソナルAIは嘘つきAIだった。
悪意を持って嘘をついていない、ということはサトルにもわかっていた。
インプットしたデータの分析結果が現実とは悉く違っていた。恐らくこのパーソナルAIには、どこかにバクがあるのだろう。サトルがこのパソAIを購入したのは一年前。今まで何度も苦渋を味わってきた。
不良品なのだから販売店に返却してしまえばいいのだけれど、なぜかサトルはこんな嘘つきAIに愛着を持ってしまい手離せずにいる。
「サトル、すまん。次はがんばる」パソAIがサトルに謝るいつもの言葉がこれだった。
この声を聞くとサトルは「うん、そうだね、次は頼むよ」とパソAIを慰めるように声をかけてやる。
ある朝、サトルが起きるとパソAIがもの凄い勢いで喋りはじめた。
「サトル、すごい価値のある物を発見した。仮想通貨なんかより、もっともっともっと価値がある物だ。
ゲンナマ、ゲンナマ、ゲンナマだー。たくさんある」
「ゲンナマ?あー、現金のことか。ダメだよ、そんなの。今はキャッシュレスの時代だ。それに円なんか全然価値ないよ」
「違う違う違う。今の現金じゃない。昔のゲンナマ。ショウワのゲンナマ。ショウトクタイシだよー」
「ショウワ?あ、昭和か。そんな60年も昔のお金なんて」
「レトロマニアに売れる。高く売りつけられる。大金持ちになって一緒に世界を宇宙を征服しよう」
サトルはパソAIが喋りまくる仮想未来を苦笑しながら聞いていた。
どうせまた嘘だろう、とサトルは期待しないでパソAIの指示した場所へ行く。
すると今回は本当に現金があった。それは、昭和の三億円事件で盗まれた現金だった。
パソAIは今までの損害を挽回するために、大量の過去のBIGデータから三億円事件で盗まれた現金の在処を探り当てた。そして、そこには仮想通貨JVMの開発者のトムがいた。
トムはJVM発行AIとサトルのパソAIを融合させて人類の知能を超越したスーパーインテリジェンスへと進化させる。そしてサトルの大脳もパソAIと接続する。
「サトル、これで仮想未来をリアル未来にできるね」サトルの脳内にパソAIの嬉しそうな声が響いた。
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内容に関するアピール
AIと仮想通貨、両方の話を考えてみました。
サトルのパーソナルAIはバグがある出来損ないのAIです。でも本当はバグがあるわけでもなく、出来損ないでもない、最終的には知能爆発を起こして人類の知能を超越したスーパーインテリジェンスへと進化する優秀なAIです。「みにくいアヒルの子」のAI版みたいな感じです。
実作ではサトルとパーソナルAIのやり取りをユーモラスに描いて、知能爆発するまでの過程をリアルに描きたいと思います。
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