梗 概
マンモス大激怒
人類の全ての仕事をAIロボットがするようになって以来、人類は主に芸術やスポーツ、学問など創造的な活動に取り組むようになっていた。全ての脅威はAIロボットに取り除かれ、人類は自然に親しみ、愛と平和に満ち溢れる毎日を過ごしていた。
そんな優雅な日常をかき消すように、大きな足音が都会に響き渡った。逃げ惑う人々の奥で、茶色い影が暴れている。次々と道路整備ロボットを宙に投げ、ホログラムの看板から飛び出してきたそれは、マンモスだった。ゾウのようではあるが、身体の表面を覆う長い毛と3メートルはあろうかという巨大な牙。博物館に展示されているものよりも大きいようだ、というのはドローンを介して見物している人たちが抱いた最初の感想だ。
害獣駆除プログラムが始動した。サイレンが鳴り、人々が建物内に避難したことが確認されると、周辺10km以内のビルは地下に沈み、ロボット機動部隊が現場に到着した。マンモスを包囲し、いよいよ射殺するというときに中央統制AIから待ったがかかった。なぜマンモスが現れたのかは分からないが、マンモスは貴重な生物であり保護すべきだという声が人間から多く寄せられたのだ。しかし、再び暴れだしたマンモスによりロボット機動部隊は全滅した。さらに驚くべき知らせが届く。マンモスは世界中に現れていた。
マンモスが地上を荒らしている間、人々は地下で生活を続けていた。幸い食糧は十分にあったが、送電設備が破壊されてからは人間だけで命をつないでいた。地上では様々なロボットがマンモス捕獲に動員されたが、怒り狂ったマンモスにみな踏み潰されていった。
ある日、しびれを切らした一人の男が地上に飛び出した。彼は普段から身体を鍛えていたので、マンモスに勝てる自信があった。ロボットの残骸がそこらに転がっている荒地を、マンモス探して一人歩いていくその姿はまさにクロマニョン人。そう思った矢先、背後に巨大な気配を感じる。マンモスだ。同時に彼は思い出す。クロマニョン人はチームでマンモス狩りをするのだ。自分が単独で飛び出してきたことを後悔した。マンモスの目に、怯えている自分の姿が映る。
死を覚悟した彼の目線の先に人影が見えた。マンモス退治に出てきた人が他にもいたのだ。彼らが投げた槍がマンモスの背中に刺さり、マンモスの動きが鈍る。その後の必死の戦闘の末、ついにマンモスを仕留めることに成功した。
マンモス狩りは他の地域でも行われ、数頭の捕獲にも成功していた。人類は再びマンモスを制したのだ。
危険はもう無いと中央統制AIが判断し、非常事態が解かれることになった。地下に潜っていたビル群は再び地上に生えてきたが、そこから出てきた人たちは前とは違う表情をしていた。
数週間の地下暮らしに疲れて人々がみな寝静まったころ、中央統制AIは「マンモス復活プログラム」を終了する。捕獲された数頭のマンモスも人知れず消えていく。
文字数:1197
内容に関するアピール
せっかく今流行のAIを題材にした小説を書くのであれば、これからまさにAIの恩恵を享受するであろう子どもたち向けにしようと思いました。「不労不戦になった人間は果たして人間といえるのだろうか」というテーマとアクションシーンを意識しました。
人間の仕事はすべてAIロボットまかせ。そんな極端な世界は来るのだろうか。人類の歴史を振り返ってみても、そんな世界はあまりにも異常である。泥臭く続けてきた試行錯誤をここで途切れさせてよいのだろうか。漠然とした不安を抱いています。
マンモスは古代人にとって貴重な獲物であり、よきライバルだった。いわば人類の幼馴染であるマンモスがそんな人類の世界を見たらどう思うだろうか。きっと怒るに違いない。ならば思う存分に怒ってもらおう。
マンモスに怒られて人類が何を感じどう変わるかは分かりませんが、これを読んだ子どもたちには「おもしろかった」と思ってほしいです。
文字数:393