梗 概
金鴉の花嫁
外資系の広告代理店で営業職をしているミツルと、フリーのコンピュータエンジニアであるレイリーはゲイのカップルである。
ある日レイリーが「ブライドが暴走した、ぼくたちはもう終りだ」というメッセージをミツルに送信したのち姿を消す。レイリーの消息を確かめるために彼のパソコンにアクセスしたミツルは、レイリーが中国政府のコンピュータを使って仮想通貨「バチェラー」のマイニングをするライセンスを所有していたことを知る。レイリーが書いたと思われる真新しいプログラムを見つけたミツル。「ブライド」と名付けられたそのプログラムは、ミツルがコンピュータにアクセスしたことをトリガーに動き出す。
次の日、ある中華系の取引所から巨額の「バチェラー」が流出する。
レイリーの携帯電話はつながらず、ミツルは仕事に集中できない。同じ会社のクリエイティブにいるアリサから食事に誘われて、気乗りしないままに付き合うと、現在アリサが関わっている仕事が、バチェラーの周知を図る政府がらみの一大プロジェクトであることがわかる。アリサはある昔話をする。
「昔ね、一人の王様がいたの。
王様は、娘の婿選びをするために、いろいろな身分の独身の男たちを集めた。
夜の間に男たちは話し合い、誰が夫にふさわしいかを持ってきた貢物の良しあしで決め
るはずだった。でも、長い夜が明けて、姫が花嫁の姿で現れると、男たちは言ったの。
我らはみな、同等に姫を尊ぶもの。
ひとしなみに求婚者として姫の貞節をお守りしつづける。
そして花嫁は永遠に誰とも交わることなく、男たちは独身のまま無目的に身体を鍛え、
使うあてもなく増強した精力を互いに放出しあった。
この話からわかることはなんだと思う?」
「さあ?」
「あなたの恋人はもう戻ってこないわ、残念ながら」
その夜、レイリーのパソコンの上にどこからともなく一羽の大きなカラスがやってきて羽を休めているのをミツルは発見する。
カラスは光るものをくわえている。恐る恐る手に取ると、その小さなカプセルには一連の文字列が記載されていて、案の定それは多額のバチェラーが流れ込んだ先と思われる口座番号だった。
ふとカラスが何かを見つめていることに気が付く。そこにあったのは小型の監視カメラである。いつからあるものかわからない。ふとミツルはレイリーが自分との関係を世界に発信していたことに気が付く。電波に乗せられ、監視されて記録されたもののさらに先に、また別の関係が加えられていく。
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内容に関するアピール
ブロックチェーンの仕組みに欠かせない「みんなで監視する」システムについて考えていたら、バチェラーとブライドの関係に見えてきたので、デュシャンの大ガラスをモチーフに作品を作ってみました。実作では堂々巡りするメタ視点を加えて描き上げたいと思っています。
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