ぼくのハワイで零戦で。

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梗 概

ぼくのハワイで零戦で。

僕は高校の歴史授業で使われる映像の制作会社に勤めている。
3Dモデルを精密につくって過去をリアルに再現し、資料と照らし合わせながら、歴史理解を深めるための映像をつくるのが仕事だ。

僕が配属されたチームは、アジア・太平洋戦争のプロジェクトをすすめており、僕は「真珠湾攻撃」を再現する映像をまかされる。
映像の制作がおわりかけたある日、僕は「別の真珠湾攻撃をつくってみよう」と思い立ち、ゼロ戦や風景の素材を社員寮の部屋に持ち帰る。

僕が部屋でつくりはじめたのは「真珠湾に到達した零戦部隊が、ハワイのきれいな風景に魅了され、ここには空爆できない、と独自で判断して引き返す」という爆発も何もない映像だ。
僕は「あの戦争がなければ、日本は今もまだ豊かな国のままだったのに」と思っている。
次の日、僕は上司に呼び出され、「なぜ歴史を改変するような映像を作ったんだ?」と質問される。「なぜ君は、日本軍がアメリカを攻撃するような映像をつくったんだね?」

上司からは、昨日まで仕事でつくってきた真珠湾攻撃の映像の消去を命じられた。資料に照らし合わせて、米国艦隊が攻撃される様をつくってきたけど、それは間違いだという。
そして「真珠湾に到達した零戦部隊が、ハワイのきれいな風景に魅了され、ここには空爆できないと独自で判断して引き返す」映像をつくるように指示される。
上司は、それこそが「真珠湾攻撃」だという。
僕が「後々の歴史との整合性がとれないですよ?」と指摘すると上司は「君は日中戦争のことをもっと勉強しないといけないね」と言った。
「もしまた歴史を冒涜するようなことをすれば、そのとき我が社はキミを適切に処分するよ」とも。

僕は同じチームの谷山と仲が良かった。谷山は中国本土での戦争を担当していて、食事のときにいつも日本軍の愚痴を言う。
「あんなに強い中国と戦うなんて信じられない」と。僕は「日本はイギリスやアメリカのせいで負けたんだよ」と主張するが、谷山は笑うだけだ。

その後、僕がつくった映像は無事に完成。すぐに学校に配布された。

僕は母校でもある高校を直接訪問し、映像がどう使われるのかを調べることにした。
先生は元教え子でもある僕が訪問したことと、その仕事内容を知って喜んでくれた。ぼくの会社が制作した映像はとても役に立っているそうだ。

僕が歴史授業を見学したいと告げると、先生は教室まで案内してくれた。しかしなぜか行き先は屋上で、先生は屋上から見える街並みの説明をはじめた。
そして急に説明をやめて「何が目的?」と僕に尋ねた。そのとき屋上のドアが開き、僕は突進してきた警官たちに拘束される。僕は拘置所でまずいご飯を食べ、眠った。
目がさめたとき、僕は社員寮の部屋にいた。
いつものように出社すると上司から「真珠湾攻撃」を再現する映像を制作するよう指示が出た。
僕が「それは真珠湾に到達した零戦部隊が、ハワイのきれいな風景に魅了され、ここには空爆できないと独自で判断して引き返す映像ですか?」と尋ねると、上司は「そうだ。そのとおりだ」と笑顔で答えた。

文字数:1251

内容に関するアピール

主人公の「僕」は史実にのっとってCG映像を作りますが、それは上司から「全くの誤り」だと言われてしまいます。
「僕」にとっての正確さが、他のすべての人にとっての「エラー」であり、主人公にとっての「おふざけ」が真実であるような世界です。
気の合う同僚でさえ、真実を共有できません。
主人公は戸惑いを感じながらも、他人が抱いている世界観を受け入れて、それこそが真実だと認識するようになります。

すべて一人称で描く予定です。

文字数:204

課題提出者一覧