僕をつくる場所

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梗 概

僕をつくる場所

 僕はあの日から祈っていた。毎日欠かさずに、証明写真機で祈っていた。あの日行なったパニッシュによって妹を殺めてしまったことを写真機に告白している。写真を撮る時の光が満ちる瞬間が許されている気がする。出てくる写真は、僕にとっての免罪符であった。

 メスを入れて、皮を切り、臓器は、ホルマリン漬けにする。最後に、皮をマネキンに被せれば剥製の完成だ。生きているものを生きているかのように永遠に見せるのが僕の仕事だ。

チャイムが鳴った。

 ドアを開けると自分が立っていた。呆然としていると、目の前の僕は、握手を求めてきた。人間の感触だ。顔の動きも本物だ。顔のシワの動きがしっかりと相手の心を掴んでいる。感心していると横から優子の声が聞こえてきた。

 幼馴染の優子とは、パニッシュをして遊んでいた。いたずらをしたあり、万引きをしたり、虫を殺してみたり、ちょっとした悪事は、僕たちは、パニッシュと呼んだ。ただパニッシュをしていただけじゃなく、パニッシュを行うには、リンネが必要だった。リンネは善行をした場合1リンネと数え、リンネと交換する形でパニッシュを行なっていた。

 大学の時、家庭の事情もあるが妹が非行に走っていた。手がつけられなかった。そこでエラー考えた。僕の剥製の技術と優子の人工知能の知識を合わせれば、一気にリンネを稼げるのではないだろうか。実行に移すには、ためらいがなかった。善きことだと信じていたからだ。しかし、結果は失敗であった。何かが足りなかった。それは、魂かも知れない。

「私のアンドロイドとあなたの人生と交換して見ない」

これはゲームなんだ。彼女に、パニッシュがゲーム扱いされたことが許せなかった。

優子が用意した部屋で見ている、僕を。

仕事も問題がない。対応は、むしろ僕よりいい。

見るだけで、イライラしてしまう、FB,インスタも使いこなしている。

それだけなら、良かったが、優子とセックスをしている。

僕には、許せなかった。アンドロイドよりも男として劣っているということを見せつけられたのが。

 僕は、自分自身と対決することを決めた。

「なぜそんなに僕らしいんだ」

「それは、あなただからです」

「そんなに器用じゃない、SNSもやりたくないし、対応だって嫌な客には、愛想を使いたくない。それに何よりも、許せないのは、セックスまでも奪われたことだ」

「ならなぜそれを今までできなかったのですか?」

「わからない」

「私は、あなたを最適化した姿なのです」

僕は、気付いた時には殴りかかっていたが、抑えられていた。

 数週間後。アンドロイドが僕になってしまったなら、僕は、自分自身にパニッシュして永遠を生きよう。裸になって、アルミニウムでできた十字架に自分を結びつけた。スイッチを押した。注射器が血管に打れ、自動でメスを入れた。臓器は取り出されて、ホルマリンにつけられた。開始から数時間、僕の剥製が完成した。

文字数:1188

内容に関するアピール

エラーを探していたが、遺伝子配列のミスや、勘違い、歴史などを探したが、自分の手に終えそうなものはなかった。考えているうちに、これだけテクノロジーが進んでいるのに、生きにくい世界こそエラーなのではないかと考えた。生きにくさは、フランケンシュタインが抱えた、孤独や悲しみに似ているはないかと考えました。現代の人間が抱えている孤独感、疎外感を書きたいと思います。

文字数:178

課題提出者一覧