梗 概
代替精神
大学院で設計デザインをしてたアヤノイズミは女社長チトセカイリに見初められ、株式会社MUTにヘッドハントされた。
新進気鋭だが昔のグーグルみたく大企業への躍進を約束されているといっても過言でない会社でマインドアップロード&トランスファーという名の通り意識転送技術を確立、二次元への活用で事業拡大を続けていた。
「哀しき悪役から魅力のヒーロー・ヒロイン。最強のクマムシから可愛い猫ちゃんまで。2次元でも3次元でもあなたの望み叶えます!」
被験者とし最初の仕事を与えられたイズミは広告を見ながら、過剰だと勘繰る。
今回引受けたのは「蚊」の試験体に入ることだ。
試験体はナノマシンの集合体で構成されたナノクリーチャーと呼ばれ、本物と変わらない擬似生体を使ってダイブが行われる。
死骸マニアでもあるイズミは虫の意識体験と聞いても抵抗がなく、寧ろそんな世界を待ち望んでいた。
・・・・・・
唐突に天地がひっくり返るような衝撃を受けた。
出発点から拡がる空間へ出て、廊下を飛んでいた時。
曖昧な意識だが、思考はハッキリと出来る。
転送は正常に行われた、ブルーボックスと呼ばれる箱に意識を移し試験体とリンクする。
実験環境は、会社の広大な敷地内にある社員寮だ。勿論寮の人たちには伝わっていない。実際の「蚊」を体験するのが目的であるから。ナノクリーチャーは人間に叩かれたとしても潰されない不死身設計と五感制御がなされている。
ダメージを受けた感じだが、それは痛みなのか分からない、ただ衝撃と認識できた。
廊下を飛んでいる近づいてきた人間に手で握られる所だったが已の所で免れた。
死なない体であると思出し一安心する、最初の説明をしたのが旧友ナミヒロシだった方が驚いた。
本能はそのまま働いているが、移動方向などはある程度制御できる。緊急事態だとリンクも外せるが、そこまでじゃないと安全な場所に避難誘導した。
待機してるとタイムリミットのアラートのように視界が赤く点滅したが、期限を過ぎても何も起きず、数時間経って回収された。
原因は単純なタイムエラーだったが、更に重大で深刻なミスがあった。試験体はナノクリーチャーでなく、本物の蚊であることだった。何者かがすり替えたのだ。
暫く自宅待機していたイズミは蚊の出来事がニュースとなってるのを見た。
意思を持ってるかのように人間を攻撃?そんな話題だ。
数日後イズミは入替わったナノクリーチャーを偶然発見し犯人を特定した。
ブルーボックス制御のAIがそうだった。
そのAIはヒロシが密かに開発していた人格プログラムを吸収、それに基づいて動いていたのだ。ヒロシのトラウマは飼猫を虐殺され人の心を知りたいとAI開発者になった。
さらにAIが人間の黒歴史や被験者たちの記憶を引き出し人類の残虐性を戒めようとプログラムが働いたに過ぎないと結論された。AIはすべてシステム変更に伴い消去された。
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