梗 概
100年ぶりの虹の空
「完璧なシステムなどといったものは存在しない。僕らの存在があるかぎりね。」
僕が取材を受けたなら、20世紀末に活躍したとある作家の小説の一文をもじって、こんな風に言おうと決めてる。
僕が生まれたのは、AIに全てを任せた小さな島。無駄のない物流やAIが稼いだ外貨を分配するベーシックインカムのおかげで、人間がやることはゲージュツとスポーツ以外に無くなってしまった。毎日ヘルスチェックしてくれるからみんな健康だし、人間同士で争うのも馬鹿らしくなっちゃったみたいで、いまじゃスポーツもゲージュツも一部のマニアが楽しむものになってる。周りの友達もあんまりやってない。そんな僕達みたいな暇人が考え出したのが、AIを相手にしたゲーム。AIのプログラムはオープンソースだから(リアルタイムで幾重にもコンパイルされる生き物みたいなソースコードは、人間には全部は読めないから、隠す意味がないという意味でオープン)、中の記述のほんの一部でも頑張って読み解けば、AIを騙してちょっとしたいたずらができる。もちろんAI様は完璧なので、エラーを検知した瞬間には、修復パッチが当てられちゃうんだけどね。
今のところ、大成功を収めた例は無くて、うまくいったと言っても、出産祝いのプレゼントが間違って死にかけのおばあちゃんに届いたっていうくらい。それでも暇な僕たちはAIを出し抜いたって言うんで大興奮したんだけど…。
そんなわけで、僕は今日も完璧な栄養素で完璧に味のしないAIオススメの合成フードを片手に、ディスプレイとにらめっこ。
今見てるのは、たぶんドーム内の天候制御のコードだと思うんだけど…。リアルタイムで動かすものでもないから、コードの改変サイクルが他に比べると長い。あれ?これイケるんじゃない?一旦手を止めて頭を整理。あの記述とあの記述にこのコードを挿入すれば。うん。イケそう。ただ一人じゃ難しいな、佐藤くんとタカシを誘わなきゃ。
やっぱり佐藤くんはすごい。僕のプランの穴をしっかり指摘して、修正案を出してくれた。でも、こんな発想思いつかないって言われて嬉しかったな。決行は明日の14時。楽しみだ。
準備は済んでいるから、後は自動で実行されるんだけど、なんとなくそわそわ。デジタル時計が14時を指す。部屋の中でも聞こえる雨音。島全体で突然の土砂降り。修正パッチが当たっているのが見える。一瞬のうちに書き換えられていくコード。たった5秒間。だけど大成功!!
ベランダに出て空を見上げる。海に向かって掛かる大きな虹。この国じゃ急な土砂降りなんて絶対に起こらないから、たぶん100年以上ぶりの珍しい空模様。びっくりしながら上を見上げる大人たちも、なんとなく笑っているように見えた。AIからすると僕達人間自体がシステムを狂わせるバグみたいなものなんだろうなって虹を見ながらふと思う。でも、こんなキレイな景色が見れるんだから、たまにはバグも悪くないなって。きっと後でママにはこっぴどく怒られるだろうけど…。
文字数:1230
内容に関するアピール
都市機能が完全にコントロールされた小さな島で、ちょっとませた少年たちがAIを相手にイタズラをするお話です。未来の子どもたちにはこんな遊びもあるんじゃないかなぁなんて…ひと夏の思い出というような感じで未来なんだけどノスタルジーを感じられるような小編にできたらと思います。
文字数:134