梗 概
(ハッピー)エバーアフター
東京は千代田区内神田のIT経済特区に本社を置くカワダ医療機(株)はペースメーカーなどの医療器具を取り扱っていたが、意思決定基準法が国会を通過して以降、ISOを取得して社名をmossyに変更、注目企業として名をはせた。mossyの主力商品は人の心と相互接続し、代わりにコミュニケーションを取ってくれるコミュニケーションアダプタである。それを使えば、理解があり、協調性が高く、タフで、やる気に満ちた人間になることができた。
mossyの利点は装着しているのが外部にわからないこと。そこに目をつけたのが外務次官の気良佳子。G30の開催を控え、支持率低下気味の日本国首相田中雄平が外交上有意な地位に立つことを狙った。
秘密裏に官邸に呼び出されたのはmossy社長フォン由紀夫とエースエンジニアの川口笑夢。外務次官からの打診を受け、業務拡大のチャンスとばかりに引き受けたフォンだが、技術者である川口には大きな危惧があった。mossyは対話している相手の表情や声から多くを受け取っている。首脳会談のような多言語環境でどんな事態になるかは検証不足だった。
結局フォンのはったりによって採用されたmossyを田中首相がつけたまま迎えた首脳会談の日。主なテーマは南米の金融支援およびアフリカの開発支援だったが、田中首相はmossyによって空気を読みまくった結果、北方領土の返還とアフリカへの駐留軍展開を約束した上に、英仏の女性首脳にセクハラ発言を連発してしまう。
帰国後、国賊扱いされた田中首相は外務省の気良やmossyを名指しで批判。こうなる事態を予測した笑夢はアメリカへ逃亡、これまでの貯金をはたいて他人の戸籍を購入、整形まで済ませて、日系ベトナム人として生まれ変わった。
その後、日本の国際的地位は危険水域に達し、中韓との戦争が始まる。はじめは小規模な小競り合いだったが、東西両陣営を巻き込んだ世界大戦へと発展し、終戦まで十五年を擁した。
終戦後、徹底的に破壊しつくされた東京へと戻ってきた笑夢は救世軍のリーダーとして炊き出しを行っていた元mossy社長のフォンに再会する。世界を壊すきっかけを作った張本人に再会した笑夢は溢れ出る感情を抑えきれずに正体を明かす。しかし、フォンはまったく悪びれず、「でもmossyがあるからいまもこうして救世軍をやってられるんだよ」と答える。こんな状況でも動き続けているmossyに驚いた笑夢はサーバのアルゴリズムを確認しにいく。そこで動いているものは、どうということはない、リスト形式の、決まったパターンによってある種の感情を誘発するだけの、単純な仕組みだった。サーバへの問い合わせアダプタを作っていた笑夢は知らなかった。とんでもないペテンだ。
「こんなの、日めくりカレンダーじゃない」
アメリカに帰国した笑夢は、勤務先のスーパーコンピューターで演算をしてみる。もしもあのときmossyが使われていなかったら? 演算結果を見た笑夢は驚愕する。mossyがあったことで、相対的に人類は幸福になっている、と。
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内容に関するアピール
星新一というと、そんなに沢山読んだことはないのですが、「オチがついている」「パロディ的な要素が強い」というイメージがあります(※個人の見解です)
エンターテイメントといっても泣けるものやハラハラするものなど色々ありますが、今回は現実を戯画化したネタで勝負します。つい先日アメリカ大統領選挙の結果が出たばかりですが、現実がわりと面白いので、あまり奇をてらわず、その設定を活かしてみました。博士とかも無駄に出してます。
小説を読まない同世代男性の需要掘り起こしはずっとテーマにしているので、サラリーマンあるある小説として読めるようにするのが目的です。選出された暁にはFacebook予算を$30確保し、おじさんをターゲッティングしていく予定です。選ばれなかったら予算はペンディングとなりますので、あしからず。
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