Silent is Gold

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梗 概

Silent is Gold

 

 つかれて家に帰ると、部屋で人が死んでいた。

 私は風呂に湯を入れることにした。私は黄色から逃げている。気がついたのは最近である。それまで黄色は私にとってもただの黄色だった。だけどある日、気がついた。黄色が迫ってきている。はじめは気が付いていないふりをした。しかし身体を空間を、視覚を聴覚を味覚を触覚を、私の感覚が黄色を認識する。黄色を認識しているのは私だけなのだろうか。私は不安になった。私だけ感じる私の黄色。私だけ感じる不安、恐怖、この不快。私、ひとり。私は普通の人間であった。普通とは健康を測定した場合の普通である。私は身体的特徴も視覚や聴覚の認識も、血液も正常であった。私は精神的な病を疑われたことも、脳的能力の欠落を疑われたこともなかった。私は普通の人間としてやってきていた。私は目立たない人間であった。そのため私は私が認識していることは多くの他の人間が認識していることだと思っていた。私は知人に黄色の話をした。知人は困ったような笑ったような顔をしただけだった。私は知人のこの異様なものを遠ざけるような反応を敏感に感じ取り、続いて黄色の話をもちかける人間を、上司から友人に切り替えた。友人は黄色を感じることはないと言った。私の考えすぎなのではないかと言い、あまり気にしないほうがいいと結んだ。私にとって黄色は気にするか気にしないかというような問題ではなかったのだが、友人との話の途中で、私はこの友人にはそのことを分かってもらえないのだと分かった。なにか絶対的に友人には欠けている部分があり、いや反対に普通の人間ならば欠けていないとならない部分を私が持っているのかもしれないというそういうことを理解したのだ。

 私が風呂を覗き込んだ時、そこにはいつものように電気温水器からひかれた湯が入っており、その湯はいつもと違って黄色だった。私は風呂場の蒸気の中で頭の芯が痺れる。黄色に侵される感覚から逃れきれなくなっている。黄色に凌辱されている。ちょっとずつだ。ちょっとずつ身体に入ってきている。感覚に触れる。体内に触れる。臓器に触れている。近くにいる。服をまとっていない身体はより無防備に感じる。11月の風呂場は寒い。シャワーを出してみたらシャワーの湯は水色だった。私はあわてて目をつむりシャワーを頭からかぶった。シャワーの湯が温かい。目を開けて風呂を覗き込んだら、風呂の湯は黄色いままだった。私は部屋にある死体のことを思い出した。

文字数:1014

内容に関するアピール

実作での予定は、みずみずしく華々しく生を生として生きていない主人公が、黄色から逃れないといけないために、主人公の意気込みとは関係なく生を謳歌するのだけれども、生を謳歌することの違和感から逃げたいあまりに自殺するまでをお話にします。

文字数:115

課題提出者一覧