梗 概
太陽と月のラプンツェル
ターリアが目覚めると最初に思い出したのは自分の名前であり、それが思い出せる全てだった。
空に星々、落ちてきそうなほど巨大な月が二つと、その月に届かんばかりの巨大な塔がひとつ建っている。
不毛の大地の上を、行政無線チャイムのような、スピーカーの付いた柱が全方位、地平線の彼方まで規則正しく林立している。
歩き回って町を見つけて、そこで暫しすごしていると塔から美しい歌が聞こえてくる。
すると、突然ターリアをのこしてあたりの人々が眠りに落ちた。
やがて目覚めた人々に教えてもらった。
スピーカーの歌は塔から届けられていること。
歌はラプンツェルという少女のものであること。
人々はそれを聞くことでしか眠れないこと。
ラプンツェルは魔女によって塔の中に幽閉されていること。
魔女はラプンツェルの歌の力を使って人々の眠りを、ひいてはこの星を支配していること。
なぜ自分だけは眠らないのか。それを知るためにターリアは塔に向かう。
塔にたどり着いたターリアは、ラプンツェルに邂逅する。
ターリアはラプンツェルを助けだそうとするが拒まれた。
塔から出ては人々に歌声が届かず、誰も眠れなくなってしまうという理由だった。
彼女は彼女の意志で塔に閉じこもっていたが、しかし
同時にいつか王子様があらわれてこの状況から助け出してくれることをも夢見ていた。
魔女は世界を支配していたのではなく、
人々にラプンツェルの歌なしでは眠れないよう魔法をかけることで
国中の人々を人質にしてラプンツェルを支配していたのだ。
ターリアはラプンツェルを助け出すために魔女と戦う決意をし、魔女を追いつめる。
追い詰められた魔女は真実を語りだす。
記憶を失ったターリア。その正体はいばらの名を冠する姫だという。
それだけでなく、この世界はターリア、いばら姫が見ている夢であると。
それを教えると気化するように消えた。
いばら姫は全てを思い出した。
魔法使い…高度に発達した医療技術の使い手…がいばら姫の生まれた異星には13人いたが、
ひとりの魔法使いが功を焦り、王に無断でいばら姫に臨床試験を行った。
精神の境界が拡張し、過去や未来を見通せるようになる新技術だったが、のちに欠点があることがわかり
長い潜伏期間ののち脳死に至ることがわかった。
12人の魔法使いの延命措置によりなんとか脳死一歩手前の昏睡状態にとどまった。
いばら姫の魂は過去や未来が渦巻く時空の狭間を彷徨っている。
塔の魔女は未来の可能性の私。そしてラプンツェルは。
地平線から太陽が昇り始める。永い夜は今終わる。
いばら姫はラプンツェルの元へ駆けつけ、抱きしめる。
「あなたはもうひとりの私。誰かの助けを夢見て待ちつづける、それが私だから」
だからいばら姫はラプンツェルを助けたかった。
気がつくといばら姫は傍に王子がいるのに気がつき、今まで永い夢をみていたのだと理解して頬を涙で濡らしました。目覚めてはもう二度と、あの子の歌は聞こえないのです。
文字数:1199
内容に関するアピール
今作は、いばら姫とラプンツェルのガールミーツガールストーリーです。
SF要素はイメージを広げるためにとどめて、あくまでおとぎ話としてのテイストを大切にしたいと考えています。
いばら姫の物語は眠りと目覚めを通して思春期の成長を描いていて、その結末はハッピーエンドですが、固有名を使いまわして思春期の異なる側面を描けないかと考えました。それはつまり、いばら姫が眠りから覚めたのは、はたして本当に幸せだったのだろうか、という問いです。
文字数:212