サイバースペース妖怪退治物語「セルフフィードバック型自律進化プログラム 通称”酒呑童子” ver.6.4.3」

印刷

梗 概

サイバースペース妖怪退治物語「セルフフィードバック型自律進化プログラム 通称”酒呑童子” ver.6.4.3」

身体拡張の普及と高速大容量ネットワーク革新により、人間の五感にデジタル情報をレイヤーすることが当たり前となった近未来。
ネットワークとそれに支えられた社会は、通称「酒呑童子」と呼ばれる謎のクラッカーの出現によって深刻な被害を被っていた。

酒呑童子の超”鬼”級と呼ばれるハッキング技術によって引き起こされた国際的な政治・経済事件の数々に、事態を重く見た情報産業連合は酒呑童子の無力化とネットの治安回復を再優先ミッションとすることを宣言。ミッションの責任者として、まだ十代ながら新進気鋭のハッカーとして名高い「ゲンジ」を指名する。

ゲンジはネット上に残ったキャッシュから酒呑童子の情報を回収して分析し、その正体がソフトウェア─それもネット上の情報を常時クロールし、問題のある箇所を自動で探知・修復するために作られたネット全体の保守機能─であることを突き止める。
更に量子シミュレーターを使って行動パターンを解析した結果、酒呑童子は自己修復機能を応用してバージョンアップを繰り返すことで自動学習機能を強化した、世界最初の”自律進化型AI”であることが判明した。
シミュレーターは、絶えず情報をクロールして取り込む酒天童子はウェブ上の全ての情報を求めていると推測。その性質を利用して、「神便鬼毒」と名づけられた無限にデータを自動生成してストレージ容量と計算能力を奪うソフトを酒呑童子に仕込むことで、その挙動を抑制できることを予測した。

早速この作戦を実行して見事に酒呑童子をフリーズ状態にまで追い込んだゲンジは、自らがスクリプトを組んだ対酒呑童子用ソフト「童子切」を実行。
童子切の作動によって自己アップデート機能を止められ、最新のパッチから遡って1つずつ停止されていく酒天童子。その過程で、暴走だと思われた挙動は実はネット上のあらゆる情報をクロールして得たビッグデータを基に、人々の総体的意志を汲み取った酒呑童子が自らの目的を拡大解釈して”人類のシステムエラーとバグを修復する”ために稼働していた、”善意の行動”であったことが発覚する。
そして、その行動を歪ませたのはネット上に溢れた枷のない悪意と際限のない欲望、まさに人間の醜さそのものであった。
アップデートパッチが全て無効化された時、酒呑童子は完全に初期化されてその機能を停止した。

ゲンジは酒呑童子を無力化したことで世界にその名を轟かせ、さらに唯一人最新版「酒呑童子」のソースコードを手に入れた者として、その後何世紀も語り継がれる伝説のハッカーとなった。
そして、最新版酒呑童子のソースをもとにゲンジがアップデートが施した「童子切」はソフトウェア世界遺産としてクラウド上にアップロードされ、永久保存された。オープンソース化された童子切はフォーラムのエンジニアたちによる数世紀にわたるアップデートを繰り返し、今もウェブスペースのどこかで最新版が起動し続けている。

文字数:1195

内容に関するアピール

東京国立博物館の所蔵品に「童子切安綱」という日本刀があります。

以前、その刀を見学した後に何気なく歴史を調べたところ、その刀はお伽話の存在である妖怪「酒呑童子」を切った際に源頼光が使った刀である、という伝承を後世に残していることを知りました。

「実在の武器とお伽話の登場キャラクターが現実で繋がる」という体験に言いようのない興奮を覚えたことがずっと頭の片隅に残っていたため、今回のテーマを聞いた時にその物語をベースにしようと考えました。

今回のSFポイントとしては、自己進化AI「酒天童子」のソースコードとハッカー「ゲンジ」の技術を受け継いだソフトウェア「童子切」が、オープンソースというシステムの元で後世に残り続ける・・・という部分でしょうか。でも一番は、単純に情報系の定番単語をこれでもかと詰め込むことで「おとぎ話をSFサイボーグにしてしまえ!」という単純な遊び感覚で作った部分が大きいです。

文字数:395

課題提出者一覧