銀河の梯子渡し

印刷

銀河の梯子渡し

「カスミ! あんま遠くいきなさんなー」
ってウタちゃんが言ったけど私、ぜんぜん耳に入ってなかった。
「ひゃっ、つめたい」
ってウタちゃんが、打ち寄せる波が足をあらうたびに言って、波から逃げるんだけど逃げられてなくて、けっきょく濡れてるのなんかおかしかった。
一歩ふみ出すたび、足の裏がさくりとしずむ。
踏みしめる砂は透明なガラス質で、風が撫でるたびサラサラ音をたてて、足の裏がくすぐったくって気持ちいい。
ふりむくと砂辺にのこる二組の足あと、だんだん波に掻き消える。水はつめたいけど風、湿っててすこしひんやりしてて……最近ずっと《舟》の中だったから、なんかこういう気分久しぶりですごく胸がスーッとした。

《舟》がこの恒星系を出発するにはまだまだ時間があるし、調査とか資源採掘とか、私たちの仕事だけど、《舟》のドローンがほとんどやってくれるし正直そんな仕事ない。
ウタちゃんは「久しぶだね。海のある星」
って言ったけど、そうだったかなあって思って
「二つ前によった星もあったよぉ」
って言って私反発した。
「違うよ。海の水、アンモニアとかシアンとかほとんど無くて普通にさわれる」
ウタちゃんが海の水をすくって見せる。
ああ、そういえば。
ウタちゃんの手のひらに顔を近づけると、ぱしゃって水かけられた。
「なにすんだ!」
ウタちゃん、あははってわらって海にの方へ逃げる。追いかける。
浅瀬で捕まえた。
打ち寄せる波、遠くからやってくるけど海、薄緑がかった青色でどこまでいっても浅瀬みたいでずっと向こう、水平線がぼんやり白んでた。水平線から登ってる一本の光の筋、天の川……ほうんとうはあれ、星々が集まって大きな渦になってて、私たちもその渦の中にいるから河みたいに見えるんだって知ってる…

ウタちゃんと手、繋いでぐるぐる独楽みたいにまわって、仰向けに寝転がと、波が耳に入ってきた。
見上げると、ほとんど頭上に天の川膨らんでるところがあって、あそこが銀河の中心だ。そこから天の川と直交して光の線が伸びてて、端が見えないくらい長い。

「銀河……」
私が言った。
「梯子渡し……」
ウタちゃんが言った。

銀河面と銀河中心から出るジェットがつくる、
夜空いっぱいに白くかがやく、巨大な十字架。

銀河。空に浮かぶ光はすべてひとつの大きな渦を作ってる。
誰だって知ってる。この宇宙には、たったひとつの銀河があるだけだ。

私たち《舟》の民は《梯子渡し》のために銀河の星々を巡っている。
でも、《梯子渡し》がいったい何なのか私知らないし、たぶん《舟》の誰も知らないと思う。

∞∞∞

まぶたを透かす光に気づいて、ああ目が覚めたんだって思った。どうもいつもより寒い気がして、それで目が覚めちゃったみたい。
朝ごはんの当番、今日は私だって思い出して、だから支度しなきゃって飛び起きた。私料理好きだし、配給の食料袋から出して食べるだけだと味気ないから、料理の方法を《舟》のアーカイブで調べて好きだ。
料理好きっていっても朝はあり合わせでちゃちゃっと作れるものでなんとかすることが多い。
今日の備蓄は何が残ってるかな。塩、糖の顆粒、配給のライスパックと固形スープ、それに鳥肉、卵、たまねぎ、苔の干物。
さて何を作ろうかって思って、とりあえずライスパック、蒸してご飯に戻しながら考える。たまねぎをスライサーに通して千切りに、鳩肉は一口大に切り分ける。なんかイメージ湧いてきた。鍋に鶏肉敷き詰めて塩ふって、熱を通す。
たまねぎが透けるくらいになったら、少し浸るくらい水を入れて固形スープ半分開け砕いて鍋に巻く。すぐに鍋は煮立って
ひと段落。一息ついてると、ウタちゃんが起きてきた。
「何作ってるの?」
「オヤコドンってやつ」
「どんな食べ物? 聞いたことないけど」
「なんかね、ご飯に鶏肉と卵、のっけるんだって。オヤコもドンもなんだかよくわかんないけど」
ふーんってウタちゃんは言った。
「カスミは好きだよね。料理に限らず何でも」
そういって料理を手伝ってくれた。
ボウルに卵を割ってとく。
「別に何でもじゃないよ。好きなことだけ好き」

器に、ライスをよそって、卵とじした鳩肉をのせる。最後に苔の干物を砕いてパラパラ巻く、立ちのぼる湯気にふやけて鮮やかな緑色になっていく、その色と匂いで、お腹が鳴った。
「いただきまーす」
卵につつまれた鳩肉おいしくて、なんかはじめてつくったなって。私はもっと甘からい味付けのほうがいいかもなあとも思ったけど、ウタちゃんもおいしいって言ってくれたし、けっこう上手くいったんっだて思う。
こんなものどこで作られてるんだろうと思うことある。私たちの《舟》はすごく大きいし、区画がたくさん別れてて基本他の区画にはめったに行かない。《杜の蔵》……《舟》の自律インフラシステムの承認が下りないと通過できないっていうのもあるし、そもそも自分のいる区画で事足りるので行こうと思わない。私たちは、自分たちに与えられたお仕事をこなしていれば、あとは楽しく暮らせてる。それで満足してるし。楽しいことはアーカイブを探せばいくらでも見つけられる。オヤコドンを作るみたいに。

∞∞∞

「カスミ、《籠》もうくるよ」
ってウタちゃんが言うんで、あわてて家を出た。
「あんた寝癖直ってないじゃないの」すっトロいんだからって言いながらウタちゃん、髪を手ぐしでなでてくれた。
全然直らなかった。
《籠》が来て、二人乗って《望天楼》に行く。ほんとは《籠》一人乗りなんだけど、二台用意して別れて乗るのもやだしじゃあ二人で乗ればいいじゃんてなって二人で乗ってる。
《籠》はレールの上、いつも同じルートを通る。ルートが最適化されてるからなんだってウタちゃんが前に言ってたし、実際どこか行きたいときちょうど近くに停まった《籠》乗れば、《舟》のどこでもだいたいのところに行けた。
通行許可のないエリアは入れないけど、入れないところはどうせ歩いて行こうとしても同じだし、だからだいたいみんな《籠》で移動する。
レールは市街エリアの上を縦横に走っている。
籠から乗り出して下を見ると居住区、光の粒が碁盤に並んでるのが見えた。
上には大きな天窓があって、宇宙が見える。銀河面とジェットの、光の十字架が。

居住エリアの端のゲートで生体認証をパスしたら北の《望天楼》……ってか、順番が逆でもともとは《望天楼》のがある方向を「北」ってよんでるんだけど(《舟》にはもうひとつ、反対側の端の区画に望遠鏡があって「南の《振宇閣》」ってよばれてる)……とにかく、《望天楼》の区画にに入った。

籠から出ると空をぐるりと見回す。
全方位ほとんど透明で宇宙がよく見えるし、この区画だけは人工重力がなくて上も下もない。
《望天楼》は、もし端から端まで歩いたら一時間くらいかかる大きさの球で、望遠鏡は球を貫く直径のように配置されてる。
「観測日和りだ」ウタちゃんが言った。
望遠鏡観測。それが《舟》から私とウタちゃんに与えられた仕事だ。
観測リーダーが手順を確認する。今月のリーダーはウタちゃん。リーダーは基本ひと月ごとに持ち回りでやってるけど、私だとトロいからなのか危なっかしいからなのか、よくリーダーの任期短縮されたりする。
「じゃ。始めるよ」
ウタちゃんが言って私、ハーイって応えた。
透明な板の中に、観測機のステータスが10個ほどモニタされている。
いろんなパラメーターの時間変異が見られた。
まずは計器類のステータスを確認。
「電圧はちゃんとかかってる?」「おっけー」
「星間ガスの温度、分圧は」「問題ないよ」
「宇宙塵の量」「大丈夫」
「ノイズ光の量は?」「おっけー。どれも閾値は超えていないですー」

「わかった。観測に支障はなさそうね」
ウタちゃん、私の後ろで腕を組んで言った。
「次キャリブレーションの確認」
「ウタちゃん」
「何?」
私は聞いた。
「キャリブレーションって何やってるんだっけ」
「あんた何年この仕事やってんの」
「3年くらいかなあ」
あきれ顔で、でもウタちゃんまた説明してくれた。キャリブレーションの工程では、望遠鏡に人口のパルスレーザーを照射して、フォトマルの精度や鏡面の焦点距離の補正をする。システムが定期的に自動でやってくれるが、補正が正しくできてるかを確認するのは、結局人の作業だ。

「キャリブレーションOKでーす」
「了解。観測を始めるね。シャッター開きます」
威勢よくいってレバーを上げると、きゃるきゃると音がなって望遠鏡のシャッターが開いた。

望遠鏡は銀河系のはるか外、目ではわからないくらいかすかな光を見つめてる。
前にアーカイブで見たことがある。この宇宙は巨大な黒い物体の中にある丸い空洞で、その中にたったひとつの銀河が浮かんでいる。
黒い空洞の表面には、光の渦がたくさんまき散らされていて、肉眼では見えないけど、望遠鏡だと覗くことができるんだって。

「…ひととおり終わりね」
「うん」
一度観測が始まればやることはほとんどない、アラートが出たときにちょちょっと対応するくらい。
賢いところや、難しいところは全部機械がやってくれるから。
《舟》の他のモジュール。
《望天楼》が見つめているもの。
この《舟》にはたくさんの人がいて、皆それぞれ《舟》から仕事を与えられているけれど、この《梯子渡し》は一番謎な仕事だと思う。生活に直接関係ない仕事なんて知ってる範囲だとこれくらいだ。

ウタちゃんは、ロッカーからギターを取り出して、練習を始める。
私はスケッチブックに木炭とりだして、ウタちゃんがギター弾いてる様子、紙にかきとめる。
ギターとか楽器のことはあんまり興味ないし自分でやろうとは思わないんだけど、でもウタちゃんが弾いてるところを見るのも好きだ。絵を描いてるときが私一番好き。私の頭の中にあるイメージ、紙の上で形になる。思ったこと、感じたもの、浮かんでは消えていくものだけど紙の上にはずっと残る。絵の中に私、いつまでもいられるんだって感じして、なんか胸あったかくなる。
なんなのかよくわからないけど、でもウタちゃんやくぅちゃんとギター弾いたり絵を描いたりカードで遊んだり一緒にご飯食べたり、楽しいしそれでいいかなって。ああ……いつまでもこんなのが続けばいいのにって思った。

∞∞∞

仕事が休みの日は、伽藍の区画へ行くことになっている。それが《舟》での習慣。
《舟》の中にはいろいろな仕事があって、それぞれ人が担当してるけど、どれも量的にはそんな差がなくて、つまりはみんな暇でだいたい伽藍にいる。《籠》から見える宇宙、今日はよく晴れてて(星間ガスが濃くて全然見えないときもあるけど)通り過ぎる恒星が青からだんだん赤に変わっていくのが見えた。
「青く見えるのは青方偏移だね、ウタちゃん」
「それどういうこと?」
「伽藍で習ったじゃん」
そういえばそうだったかも、ってウタちゃん言った。
「《杜の祠》さんの話、おもしろいのもあるよ」
《杜の祠》っていうのは《舟》の管理人というかインフラを制御してるシステムの、人工知能というかアバターで、毎日伽藍でいろいろな話をしてくれる。
「タイクツなんだよう」
って、ウタちゃん言った。私は興味がわくこと知るのすごく好きなんだけど、ウタちゃんは逆みたい。ウタちゃんはまじめなんだけど、興味がないとすぐ忘れる。青方偏移、たしか近づく星は青っぽくみえて、離れてく星は赤っぽく見えるってやつだ。

「ほらカスミ、ついたよ」ってウタちゃんに言われて《籠》から降りる。
ごぉおんごぉんって鐘が鳴っている。
伽藍は円筒形、直径121m、光があふれていて明るく、ゆっくり回転していて重力が作られている。
円筒の内壁にぐるりと長椅子が並べられていてところどころ円筒の中心に向かって塔が伸びていて、塔の中には大きな鐘と大きなスピーカーがあって音が出る。
伽藍の塔の中にあるバカみたいにおおきな鐘の音、うるさくてちょっと頭痛がする。

長椅子がたくさん並んでいて、その中の一つにウタちゃんとくぅちゃんと私、三人座った。
周り見ると三々五々に集まって座ってる。《舟》は2人~7人くらいのグループを作って共同生活をするようになってるから、そういったグループで固まってるんだと思う。

ウタちゃんが私の横腹をつついた。
「あの子、今日もひとり」
そう言って指さした先、円筒の壁面の、私たちから見て斜め上の方、私たちと同い年くらいの子がいた。小柄で、髪は肩くらいで、ま前髪で目が隠れがちで、眩重そうな顔してる。
影が薄いようなその子のあたりだけ光が届いてないみたいな、そんな感じがした。
ひとりぼっちなんて、普通ならありえないのに。
気づいたら《杜の祠》の放送が始まっていたみたい。

『《梯子渡し》の民たちよ
彼の日に梯子を掛けよう
幾多の星々を渡り
数多の日々を超えて
悲願のコトワリの彼岸へと』

《杜の祠》のねむたい口上。これまじめに聞いてる人、ウタちゃん以外でいるのかかなり疑問。
私はさっきのひとりでいる子の方を見つめた。孤立っていうのは普通ならありえない。共同生活を送るユニットは3~7人の友達で作られるし。ユニットは《杜の祠》が気の合う人間どうしになるように最適化されてるし、たとえハブられそうになっても、兆候が見つかるとユニットは再編されて、孤立が起きないようになっている。
《舟》はともだちに困らないようにできている。
「それが《舟》の安定存続に有用なんだ」って前にウタちゃんが言ってた。
あの子の横顔をみつめる。あの子どんな気持ちでいるんだろう。
ふいに。
あの子がこっちを向いて、視線。私とあの子、目が合った。あわって目をそらす。

『聖歴1788年に、人類は銀河を発見しました』

もう一度あの子を見る。もうこっちを見ていない。
「カスミ、話もう始まってるよ」
ウタちゃんに、ひそひそ声で注意された。
《杜の祠》さんの声、円筒に響いて、そっか今日は銀河の話なんだって、深呼吸して

『銀河を発見したビリー・ハクスウェルは……』

∞∞∞

《杜の祠》の説法が終わってウタちゃんを見ると、熱心に端末にとったメモを読み直していた。
今日の説法はおもしろかったね、って私言ったけど、ウタちゃんは話を租借するのに忙しいみたいだ。

帰るすがら、《籠》の停留所まで歩く。

ウタちゃん「カスミさあ、つまりどういうことなの? 今日の話」って頭を掻いていた。
「島宇宙、つまり銀河がどういうふうに発見されたかって話よ」
「それはわかるんだけど、どういう理屈なのかが……」
「それはええっと……ウ空に見える星いっぱいみえるよね」
そういったらウタちゃん頷いた。
「明るい星、暗い星、いろいろ」
「そうそう。明るさはいろいろ。でさ、ふつうはさ、近くにある星は明るく見えるし、遠くほど暗く見えるよね」
「そうだねぇ」
「でね、星の輝きの強さがどれもだいたい同じって考えて、明るさと距離が反比例ってことにして全天をマッピングしていくの。そうしたら宇宙にどういう風に星が散らばってるかわかるけど、したらだいたい円盤の形になったんだって」
「うーん???」
「えーっとだから……明るい星ほど近くに、暗い星ほど遠くにあるって考えると、星は円盤の形に分布していたってこと」
「あー」わかった気がする、ってウタちゃんは言った。私は言葉で説明するのが苦手だウタちゃんはちゃんと納得してくれたのか自信はなかった。
「でもそれよりもっと重要なのは」と、ウタちゃんは言った。
「ビリー・ハクスウェルがこのことを発見してから今日に至るまでの1300年間、宇宙についていろいろ詳細にわかるようになったけど、この宇宙観が覆され手ないことじゃない? それってすごいよね、ビリーさん」
「うーんたしかに」
ウタちゃんの指摘は的を射ている気がした。
重要なことは発見されてたこと事態じゃない。
そうじゃなくて、大昔の発見が未だに覆されていないっていうことだって。
あれ、と思って立ち止まった。何かがひっかかって、考え込む。

突然後ろから呼び止められた。
「《うたびと》、それに《春霞》」
振り返って声の主を見ると、ぬいぐるみ……? と、同い年くらいの子、一人で座ってた子だ。
「二人は少し残ってくれ」
ぬいぐるみがしゃべった。膝丈くらいの、丸っこいからだに、長い耳してる。アーカイブとかで見たことある動物と違ってなんか、手足が小さいのにちょこちょこ動き速くてキモい。
先を歩いてたウタちゃんが振り返る。
「本名で呼ばれるの、久しぶりね」
《うたびと》はウタちゃんの、《春霞》は私の名前。
「ぼくは《杜の祠》です」
「ツカサさん、ぬいぐるみだったのね」
ウタちゃんはそう言うと、ツカサさん抱き上げてかわいーって言ってもふもふいじってた。
横の子は何も言わなかった。
「あのあなたは……」と聞くとツカサさんが「この子は《妙の華》といいます」と言った。
《妙の華》って呼ばれた子、コンチワって小声で言って、あいまいに頭を垂れた。
「あのう、どうして呼び止められたんですか、私たち」
「急だけどユニットの編成を行う。《うたびと》、《春霞》、君たちのユニットに《妙の華》を編入させる」
ツカサさんが、ウタちゃんの腕の中で言った。
「そりゃまたどうして急に」とウタちゃん。
「キミたちは自分自身がどんなに重要な役割なのかわかっていない」
もしかして、って思った。さっきの説法で気になってたこと。
「ウタちゃん、《望天楼》と《振宇閣》ってとっても重要なんじゃない?」
「ちょっと待って、ハル、話が飛びすぎ」
「えーっと…恒星天が……」
自分でもまだうまく整理できてない。言葉で説明するのは苦手だ。
「恒星天と梯子渡しが関係しているってのは確かだと思う。《うたびと》さん」
《妙の華》さんが言った。
「ウタでいいわよ。私のことは。あなたはハナさんって呼んでいいかしら」
「はい、よろしくお願いします。ウタさん」
私も便乗して「ハルとかカスミでいいです」って言っておいた。

その後、ちょっと話長くなりそうだから家に戻ろうって話になったんだけど結局、何でハナさんうちのユニットになったのか、よくわからないままだった。
《籠》にさすがに3人は乗れないから、もう一台手配して分かれて乗った。私と華さんが二人乗り。ツカサさんはウタちゃんが膝に抱えてる。《籠》の中、無理して乗ってるからきつくて、華さんの肩と肩が触れてちょっとどきどきした。
居住区の上を移動する、天窓にみえる光の十字架や星たち。光の十字架の、銀河面がなす軸の方が、視界の左端と右端、ギリギリのところで切れている。これはつまり、私たちの乗っている《舟》が銀河の外縁にいるということ。
空に仰ぎ見る星々、その気になれば私たちはいつかたどり着ける場所だ。私じゃなくても、私の次の世代、その次の次の世代……この《舟》でいつかたどり着ける。私たちのご先祖様が母星から《舟》で旅立って、はるばる20世代以上かけて今、私たちがここにいるように。
だけど……本当はこの銀河は、宇宙のごくごく一部なのかもしれない。天球の内壁、恒星天、それがどんなものなのかいるのか私、まるで知らなかったことに気がついた。

∞∞∞

アリスタルコスは、半月のときに地球、月、太陽が直角三角形の配置になることを利用すれば、太陽までの距離を概算できると論じた。彼は半月のときにずに示した角度を測った。簡単な三角法と、すでにわかっている地球と月の距離から、地球と太陽との距離を求めることができる、と。

∞∞∞

「お客さんなんだから、お茶でも出すのよ」
とウタちゃんに言われ(ウタちゃんにも好きなことはあって、例えばこういうよくわかんない古い習慣のマニアだ。ときどきめんどくさいけど素直に聞いておく方が楽)テーブルに3つ、紅茶を出す。
各々茶器を手に取ったところでツカサさんが話し始めた。
「最近、一部の区画で原因不明の機能停止が起きてる」
「機能停止?」
「舟には様々な区画がある。君たちのクラス居住区画の他に、食物などの生産区画、《舟》の電力や空調などのインフラを制御している区画。すでに空調制御を管理している一部の区画は停止している」
紅茶の水面がわすかに揺れた。
「そんな……」
「最近、気温が低くなったと感じた事はなかったかい?」
そういえば心当たりがある。あれは空調システムの影響だったんだ。
「それに話にはまだ続きがある。機能不全に陥る区画は徐々に増えている。今は致命的な事態になっていないが、いつ大惨事になるかわからない。《舟》の乗員は他の区画のこと知ることはほとんどないから知らないけどね」
そういえば電気止まったり、食べ物の配給が予定通り来ないときとかもあった。
ウタちゃんはツカサさんに問い詰める。
「どうしてそんなことするんだ、あんた」
「僕にもわからないんだ」
「どういうこと? あなたが管理者なんじゃないの?」
「舟のインフラシステム、《杜の蔵》。僕は《杜の蔵》から私たちに言葉を伝えるためのAIにすぎないんだ。《杜の蔵》の全てを把握できているわけじゃない。君たちが自分自身について全てを把握できているわけではないように」
ツカサさんでもわからないということみたい。
「それじゃあどうしようもないの? そんなの嫌だよ、私」
ツカサさんの耳がヒョコっと動いた。
「そこでなんだが……君たちに原因の調査をしてほしい」
ウタちゃんが立ち上がっていった
「あの、どうして私たちなんですか?」
「言ったろう《うたびと》。君たちは他の人にはない特別な権限を持っているんだ」
「ちゃんと説明して」
「ウタさんカスミさん」
華さんが答えた。
「この舟での仕事は、ほとんど生活に関わるものですよね。つまりは衣食住関係。例外はただひとつ。いや二つですかね」
「二つの望遠鏡を稼働させる仕事だけ、ってこと?」
「ええ、カスミさんのいう通りです」
「そっか。逆にいうと全ての仕事は望遠鏡の観測のためにあるってことね。カスミが言ってた意味、わかってきたわ」
ウタちゃんちょっと得意げで、目を瞑ってうなずいた。
《舟》の目的は《梯子渡し》。私たちの仕事が《梯子渡し》なんだ。
「君たちは、《杜の蔵》に閲覧申請さえすれば、アーカイブのけっこうな範囲へのアクセスができる数少ない乗員だ。《舟》の設計も、もしかしたら見られるかもしれない」
ツカサさんが、ひょいとジャンプしてテーブルにのっかる。
「《妙の華》にも特別な権限を持っている。インフラシステムのソースコードを閲覧・編集できる権限を」
華さんを見る。こういう人はたしかに特定の分野に詳しい、のかな。そんな気もした。
「僕には権限をあげる力はないけれど、ユニット編成はできる。君たちが協力すれば、設計と実装を付き合わせて《舟》の機能停止の原因を特定できるかもしれない。どうか力を貸してほしい」
紅茶はすっかり冷めていた。
「わからないな」
ウタちゃんが言った。
「どうして私たちが手を貸さないといけないの? インフラシステムがいじれるなら、華さんだけでなんとかなるんじゃなくて?」
「システムは巨大で複雑すぎる。直すにはシステムの設計書が必要だ。それを手伝ってほしい」
「でも……」
ツカサさんの耳がまたひょこひょこした。
「設計書を探す課程で《梯子渡し》についてもわかるかもしれないよ」
「だからってね」
「ウタちゃん」
私は言った。
「ウタちゃん、《梯子渡し》どういうことかはよくわかんない。知りたいんだ」
「やめとこうよ、カスミー」
たしかに私たちに権限が与えられてるからって、今までやってきたことと全然違う。でも。私は知りたいって思う。恒星天のこと、宇宙の果てのこと、私のこと、わからないこと知りたい。
「私やる。やろうと思う」
そういって私は椅子から立ち上がる。
「華さん」
「何でしょう」
「これからよろしくね」
そういって私は手を差し出したら、華さん目を丸くした。
ウタちゃんがため息したけど、「まあカスミがやるっていうなら」って私の手に手を重ねた。そしたら華さん、少し笑って「はい」って手を重ねた。
「いっしょに舟の存亡を救いましょう」
「大袈裟な」ってウタちゃんが言って三人、クスって笑った。
たしかに大袈裟だ、まだちょっと寒くなったくらいだし、私たちができることなんてそんな大それたことじゃない、いつもの、システムの雑用。その延長だって思っていた。

∞∞∞

若きフリードマンは政治の混乱の中で、体制を疑うことを見につけた。アインシュタインは一般相対性理論の方程式に宇宙定数をつけ加え、静的な宇宙モデルを作り上げた。一方でフリードマンは、宇宙定数を含まない場合を考察し、膨張宇宙モデルを導いた。
アインシュタインはフリードマンモデルの数学的な正しさは認めつつも、その物理的な意義は認めなかった。
フリードマンは生前、ほとんど論文を読まれることなく、無名のまま死んだ。

∞∞∞

ぬかるんだ道を歩く。開けることのない曇り空に、霧雨が降っている。背丈よりも高い薇のような植物が茂っていて、アーカイブで見た母星の植生に少し似ている。サイズ感はおいておいても。
「惑星の調査といっても、私たちはやることはないですね」
無線ごしに華ちゃんの声が聞こえた。私の後ろを歩いている。
「うん。いつもほとんど遠足みたいなものだねぇ」
「そうなんですか。私は初めてわからないのですが」
この星はほとんど薄い雲に覆われていてて、大気は調べるたところ、2時間ほどで体の機能が停止する、つまりは死んじゃうようなので、探査にあたっては防護服を着ている。
「ウタさんは、どうしてこなかったんでしょう」
「まあ任意参加だし、ウタちゃんは防護服着ないと降りれない星にはあまり来ないですね。いつも」
「そうなんですか」
「うん、それに設計書早速探したいって。こういうのはウタちゃん得意だし」
それからまたしばらく黙って歩いた。
頭上を葉が覆うほどの羊歯でおおわれてて、霧雨で400mほど先までしか視界が効かない。足下は海綿状の苔が雨を蓄えていて、踏むたびに水分がジュワアって染みだした。
しばらくいくと道のように開けたところに出た。水に浸されたその場所は左側から右側までまっすぐ、先が見えない。水面からまばらに草が伸びていて、茎の先端に灯籠のような、蛍光を発する蕾のような膨らみがある。水面から伸びるその草が、道を照らしていた。
水に入ってみると、深さはだいたい膝丈くらい、気にせず進んだ。
華さんが続いて水に入る。
「ちょっと、歩きにくいですね」
華さん、バランス取りずらそうに歩いてる。
私は華さんの方に向いて、華さんが抱きしめているものに対して聞いた。
「ところでツカサさんは水に濡れても大丈夫?」
「大丈夫ですよ。防水は万全です」
耳がひょこひょこ動くが相変わらず目は開いてるんだか閉じてるんだかわからない。
「そしたら、華さん、そいつ下ろして自分で付いてきてもらっては?」
「えっ、ツカサさん、ほとんど水につかっちゃいますよ?」
「泳げますので大丈夫です」
ツカサさんが言った。
「ツカサさんその体、けっこう高機能ね」
華さんがそっと、水面にツカサさんを下ろす。
この水の道、道ってとりあえずは呼ぶけど、ここを進むことにする。茂みの中にこんなまっすぐな道が自然にできるとは思えない。
「これってやっぱり、道ですよね……」
「そうですね。人工的な感じがします」
「ツカサさんは何か解りますか?」
また耳がひょこひょこ動いた。どうも耳が動いてるときは《舟》のシステム、《杜の蔵》と通信しているようだ。
「探査衛星のとらえた映像には、今のところ文明の形跡はないようです」
「そっか……」
「まだ調査は始めたばかりですから、これから見つかるかもしれません。もしかしたら、この道の先にこの星の人がいるかもしれませんね」
この星に文明があるかもしれない。そう思うとちょっと暖かい気持ちになった。
この道を進めば、人がいるかも。人じゃなくても知性のある生き物がいるかもしれない。知性があれば文明が、文明があれば言葉が、言葉があればいつかコミュニケーションもできるかも。
「ツカサさん、もしこの星の文明の言葉が見つかったとして、翻訳はできるのかしら」
ツカサさんの耳がぴょこぴょこ動いた。
「一般に言語とよばれるようなものでコミュニケーションしているのであれば、翻訳の方法は確立しています。十分なデータさえそろえば、あとは機械的に翻訳できるでしょう。ただ」
ツカサさんは水面からぎりぎり出てる口で話した。
「コミュニケーションできるかどうかは別問題です」
「どういうことですか?」
「たとえば思考の速度が百倍速い人間を考えてみてください、あるいは百倍遅い人間を。何か話してきたとして、それを理解することはできます。でも会話は成り立たないでしょう」
「なるほど」
華さんが言った。
「主観時間がある提訴同じじゃないといけないんですね」
私はなんとなくしか理解できなかったけど、華さんはツカサさんの話しについて行けてるみたいだった。
「そういえばツカサさん、伽藍での説法は大丈夫なんですか?」
「本体は《舟》ですから大丈夫です。今ごろいつも通り説法してます」
「え? そうなの?」
「基本は本体に通信して考えたり話したりしてますけど、スタンドアロンでも稼働はできます。ここらは通信が悪いですけど、こうして話せてるのはそういう仕組みです」
「ツカサさんの自意識がどうなってるのか知りたいわ……」
華さんが言った。
「僕には自意識なんてありませんよ。あるように振る舞えるだけです」

しばらく歩くと茂みを抜けた。茂みに頭上が覆われてて気づかなかったけど、いつの間にか雲もなく晴れていた。そこには、砂浜と、ただ見渡す限り海があるだけだった。道の水は川となって海に注ぎ込んでいた。この星には月(衛星)はなく、今は風もなく、海は静かに凪いでいた。
「なんも無いですね。文明の陰もない……」
私はその場に座り込んだ。華さんは横に座った。
「そんなに残念でしたか、カスミさん」
「……いままでたくさんの星を渡ってきました。文明の痕跡があったのは20個の恒星系にひとつあるくらいかな。でもぜんぶ文明は滅びた後だった」
華さんは黙って頷いた。
「文明が生まれて消えるまでなんて、ほんの一瞬なんです。私たちは光速に近い早さで星を渡るから、たくさんの星を見て回れるけど、他の星の誰かに出会うことは全然なかった」
「カスミさんは、寂しいのですか?」
華さんに聞かれて、自分は寂しかったんだって気がついた。《舟》にはたくさんの人がいて緩やかに関わったり関わらなかったりで、気がつかなかった、けど一人でいる華さん見たときから、思いだしちゃったんだ。私たちほんとは、宇宙で孤独なのかもしれない。だからこの星に文明があるかもって思ったとき、ちょっとわくわくしたんだ。せめて文明の爪痕だけでもみたい。でないと私、寂しくて押しつぶれそう。
「華さんはどうだったの? 私たちのとこに来る前は一人だったみたいだけど」
「いえ、前は五人ユニットでした。ですがインフラシステムの管理の仕事を割り振られていたのは私だけでしたから、話せないことも多くて、孤立ぎみでした」
「寂しくはなかった?」
「どうでしょう。私は私だけに与えられた使命がありましたから。それほど気になりませんでした。あの頃は」
「今は?」
「……わかりません。でも隠し事なしに人と接することができるのは気が楽ですね」
華さんは少し笑った。
この星の太陽が今、水平線の下に潜ろうとしている。
空は朱色と紺のグラデーションを成していて、背後からかの巨大な光の十字架が上り始めている。

そのとき。見上げる空に流れ星が見えた。
「華さん、あれ流れ星だよ、ほらあっちにも!」
「ほんとだ……たくさんありますね」
「だけど、流れ星にしては随分とゆっくりですね」
黄昏の、藤色に変わっていく空に、幾十幾百の流れ星が見えた。
その一つ一つが、空の端から顕れ、横切り、端へと消えていく。たしかに、流れ星だったらもっとすぐに燃え尽きるはずだ。
「あれは、人工衛星だよ」
ツカサさんが言った。
「《舟》に問い合わせて確認した。この星には、概算で数万の小型人工衛星が飛んでいるようだね」
胸が高鳴った。
「じゃあこの星にも文明があったんですか?」
「地上はひととおり上空からスキャンしたようだけど、文明の様子は見つかっていないよ。すでに滅びたみたいだのだとしたら、人工衛星には高度を自立維持する仕組みが備わっているということだね。滅ぶいた文明はそれなりに高度な技術を持っていたようだよ」
華さんと顔を見合わせた。
「人がいなくなっても、ああやって人工衛星は空を飛び続けてるんですね」
空を見上げて、手と手を握った。
空を横切る人工衛星、かつて持っていた目的を失ったガラクタたちは、この星の人々がいなくなっても廻りつづけている。そういうふうに想像したら少し、救われた気持ちになった。

∞∞∞

その日。《舟》の17%に相当する区画が機能停止した。

∞∞∞

「設計図が見つかった」とウタちゃんが言った。すでにモジュール停止で、区画に閉じ込められた人や、死人も出ている。
「ツカサさん、写せますか?」
ツカサさんの目が光って、空中に迷路のようなホログラムが浮かび上がる。
「読み方がわからない……」
「私は読めます」華さんが言った。
「お願い」
華さんがものすごい早さで設計書に目を通す
「なるほど」
「何かわかった?」
「はい。わからなかった理由がわかりました」
「どういうことですか」
「ふつうシステムはエラーが起きたときにどこで躓いたのかがログにはき出されるように設計されているものです。エラーが起きたときにログを見れば原因が特定できるようにするため。基本的にはログを見れば原因が特定できる。しかしいままで原因不明だったんです」
「それは、どうして?」
「停止は正常な動作だったんです。《舟》が銀河の外縁にまで来てある条件を満たすと、自動的に停止するような仕様になっていたんです。これはどのモジュールにも組み込まれてますね」
「それじゃあ……」
「遅かれ早かれ、《舟》の全機能は停止します」
足が震えた。
「止まった機能は再開できないの?」
「やろうと思えばできます。しかしそれが他にどう影響するかわかりません。最悪一気に《舟》全機能を停止してしまうかも……何か方法はないか調べてみます」
「ありがとう。お願い」
華さんはシステムのソースコードと設計書を照らし合わせて調べていった。
それにしても、ずっとずっと遠く、母星から何百年飛んできたのにこんな、簡単に止まっちゃうなんて。
「どうしてこんな機能が組み込まれているのか、まるで理解できない」
「ねえちょっと、設計書以外も調べてみたんだけど」ウタちゃんが言った。
「《舟》の計画書。呼んでみて。内容理解するのはカスミの方が早いでしょ」
ウタちゃんは言った。
「うん。呼んでみる」

つまりはこういうことだった。《舟》は恒星天までの距離を計測するための計画だった。
すべての天体の距離の計測する方法はない。距離のレンジよって計測方法は異なる。
惑星の公転周期の利用、年周視差法、散開星団の観測……
なので近くの星から距離を測定していき、その距離を基準により遠くの星の距離を決定しなくてはならない。
まるで。
梯子を架けるように。
《梯子渡し》っていうのは、恒星天までの距離を調べることだったんだ。
「宇宙の大きさを知ること。それが、《舟》に託された使命だったんだ。それが《梯子渡し》」
「うーん、《舟》のふたつのおおきな望遠鏡、あれが距離を測ってるの?」
「三角法だよ、ウタちゃん」
母星の観測結果がたぶんアーカイブのどこかにある。それと《舟》の観測との視差を調べる。
視差角と、母星から《舟》までの距離をもとに、恒星天の距離を割り出す。簡単な三角比の算数だ。

「たぶんそれが正解ですね」華さんが言った。
「区画が静止する条件がわかってきました。銀河の外縁であることと、恒星天の距離が出ないこと。この二つが重なると、一定期間後に停止するようになっています。期間は区画によって異なるようですが」
「なんとかできないかしら」ウタちゃんが言った。
「まず《舟》の進路ですが、銀河の外側に飛んでいくというのはもう、私の権限でも上書きできません。ただ停止までの期間をある程度延ばすことはできそうです。でも今停止している区画まで復旧はできませんね……」
私は爪をかっんだ。なにか、方法はないのか。
「ツカサさん、観測精度のボトルネックはどこ? 精度を上げて距離がわかれば、停止しないってことだよね」
「レンズです。望遠鏡が屈折式が主流だった時代もかつてはありましたが、《舟》が建造された頃は屈折式が主流になっています。その流れをくんで、《望天楼》も屈折式……」
「それでレンジが劣化してるの?」
「時間がたてばどうしても形状が歪んでしまいます」
「じゃあ無理そうね」
「どうして」
「レンズってのはすっごい精度がいるのよ」
「レンズ加工する工場のユニットはまだ生きてますよ」
「じゃあ何でやらないのよ。レンズの交換」
「問題なのは材料です。直径5mのレンズを作るには、屈折率が高く、不純物物が全く含まれておらず、屈折率の波長依存性がなく、何よりも大きい結晶である必要があります。ちなみにこのサイズの硝子を精製できる区画は《舟》にはありません」

「もう……方法はないの?」
「あなたたちが生きる方法ならあります」
ツカサさんが言った。
「《舟》を降りることです」

∞∞∞

近代の物理学の父は、晩年に次の言葉を残した。

「私は砂浜で戯れる子どものようなものだった。 私は時おり美しい石ころや貝殻を見つけて喜んでいるけれど、真理の大海は私の前に、未だ明かされることなく広がっている」

∞∞∞

冷たい汗で目が覚めたのに気がついた。外はまだ暗い。目閉じて二度寝しようとしたけど、目がさえていくばかりだから、ベッドから外に這い出た。
息が白む。電力供給が不安定なせいで、夜の時間が長い。空調も不調みたいで、ひどく冷え込んでた。防護服を防寒代わりに着込んで、階段を上って一階にいく。私の足音と耳の奥を血の巡る音だけが聞こえた。どうやら、うたちゃんと華ちゃんはまだ起きていないらしい。
あまりうろうろして起こしてしまうのも悪いなと思ったから、外に出ることにした。玄関のドア、自動で開かなくなっててすごく重いけどがんばってゆっくり押し開けた。
音を立てないように、静かに閉めようとした。そのとき、扉の隙間からツカサさんがスルッと出てきた。
「ツカサさん?」
「どこに行くんだい」
「おはようございます……あ、いえ、どこにも行きませんよ。ただ歩くだけです」
「僕もついていきましょう」
ツカサさんの耳がひょこひょこ動いた、けどたぶん、何とも通信はしてない。ツカサさんにとってもこれは、目的のない彷徨な気がした。
夜の街を一人と一匹が歩く。コツコツと、ツカサさんの足音が、防護服を通しても聞こえた。
街灯が不規則に明滅しているだけで、町に明かりはほとんど無くて、見える範囲では人の往来はなかった。
空の端に《籠》がいくつか走っていて、息を潜めればその走る音が聞こえてきそうだった。乗る人もなく。こうして緩慢に静止していく街で、動き続けるものもあるんだな、って思った。
頭上を《籠》が通り過ぎるのをみて想った。
いつか立ち寄った星の、数多の人工衛星、いなくなった星のを回り続けるのを。
あるいは海に打ち寄せる硝子の砂。かつて立ち寄ってきた無数の惑星たちのことを。私が見てきたほとんどの星は、生命の陰さえなく、ごくごくたまに文明の残骸がうち捨てられているくらいだった。
「いなくなるのはいつも人が先なんだ。後に残るのは、とおい昔に、人が在ったっていう痕跡だけ。なんですね」
「文明と出会うなんてのは、粒子がポテンシャルの壁をすり抜けるよりずっと簡単さ」
ツカサさんの言葉は難しくてよくわからなかったけど、たぶん慰める言葉だったと想う。
天窓越しに見える宇宙は、右半分しか星がなくて、つまりここはもう銀河の端っこなんだってわかる。
もしも次に、探査する惑星が人の住める環境だってわかったら、ほとんどの人が《舟》を降りると思う。
これから先、そうそう星に立ち寄ることはないと思うから。ここから先はほとんど星はないから。
私たちのご先祖様が母星から飛び立って、何十世代も経てここ、銀河の最果てまできたけれど、もともとの目的は結局、達成できなかった。
恒星天は目には見えないけれど、たしかにあの暗闇の先にあって、でもそれがどれほど遠くにあるかわからない。わかりようがない。
母星の観測した恒星天の光源の方角と、《望天楼》が観測した方角には、わずかな視差もなかったのだから。
宇宙がどうなってるのか、結局人には知りようがなかったんだ。ここが人の知ることのできる銀河の最果てなんだ。

《望天楼》の入り口まで来る頃には、空調が戻ったようで、空気の温度が上がり始めた。暑くなってきたので、上半身の防護服を脱いだ。歩き続けでひどく疲れて、眠くて道に大の字に横になった。
電気の供給も再開したようでこの区画のそこここに灯がともりはじめる。
長い夜が今、ようやく明ける。
「ツカサさん」
「なんだい」
「私たちが《舟》からいなくなっても、よろしくお願いします。いつか……宇宙の果てに梯子を渡すとき、見届けて……」
わかった、ってツカサさんが言った気がした。人がいなくなってもその痕跡は残る。人生はそんなもんだ。歴史なんてそんなもんだ。
もうしばらくしたら目を覚ましたウタちゃんと華ちゃんが私の位置情報を追って《籠》に乗ってここに来る、夜の散歩もおしまい。だから、今は少しだけ寝かせてほしい。

∞∞∞

理想的な熱輻射の分布は、プランク分布に一致する。
物理的には、物質が電磁波を放出するときの振動子のエネルギーが飛び飛びの値を持つ(量子化する)と仮定する必要がある。この物理量が連続的な値をとらず量子化されるという概念は後に、量子力学へと発展した。

∞∞∞

テーブルを囲む、ウタちゃんと華さん、それと私。テーブルの上にツカサさん。
「次の探査星が決まりました」ってツカサさんが言った。
とうとうね、と言ってウタちゃんは足を組みなおす。
「どんな惑星なんですか」華さんが言った
「惑星じゃないくて、衛星です」
テ-ブルの上にホログラムが浮ぶ。大きく回る二つの光の球、さらにそれぞれの廻りを9つと、8つ、計17個の球がゆっくりと公転している。
「次に行く恒星系のイメージ図?」って聞いたらツカサさん、「そうです」って言った。
「二つの恒星の連星系には、人の居住可能性のある岩石惑星がない。しかしこのガス惑星なんですが」
ホログラムが、あるガス惑星を中心に拡大した。

「5つの衛星が見つかっています。正確ではありませんが大まかな大気組成はトランジット観測でわかりました。窒素とアルゴンが主成分。酸素が7%程度、それと二酸化炭素、メタンが合わせて1%ほどという感じです。付け加えると地表の気圧も《舟》内部とほぼお同じです」
つまり防護服なしで呼吸ができる、ということみたいだ。
「さらにシミュレーションによると、そのうち2つには水が存在する可能性が高いです。恒星からは距離がありますが、ガス惑星と二つの恒星の重力がつくる潮汐熱で、水は液体として存在すると考えられます」
「ハビタブルゾーンにあると?」
「その通りです、華さん」
ツカサさんが言ったこと、華ちゃんは納得してるみたいだけど、ウタちゃんは飲み込めてないみたいで
「どういうこと?」ってウタちゃん言ったから私、
「らの星に海があって、人が住めるかもってことだよ」って教えてあげたらウタちゃん、「じゃあこの星で暮らしていけるんだ」って言った。
「それは……探索してみないとまだなんとも……」

それ以上私、何も言えなかったし、ウタちゃん何も言わなかった。

窓いっぱいにみえるガス惑星のシミみたいに小さくて、夜の縁が淡く光っていた。

∞∞∞

ベルトを締めてしばらくすると、探査船は《舟》から放出された。
窓いっぱいに、ガス惑星の班が見えるまるで巨大な瞳に見つめられているようでちょっとめまいがした。
ガス惑星の後ろに二つの太陽が出てきたとき、光に照らされてふたつ衛星が見えた。
ガス惑星の陰にその星は、わずかながらに輝いている。
「目標の星、光ってみえない、文明があるの?」
って私、わくわくしたけどふたり、「うーんそうかな」とか「あったらツカサさんが先に言うと思います」言うから少ししょんぼりした。

そうこうしているうちに衛星の大気圏に突入した。
みるみる高度は低くなっていく。
窓から外を見ると星の輪郭は、だんだんまっすぐになっていく。
ここが私たちの旅の終点なのかもしれないと思うとなんか、寂しい気持ちになった。
そのとき窓に何かが見えた気がして、目をこらした。
それは、
見渡す限りの、
白くて小さなふわふわ、
まるで雪みたいで。
「なんだろう」
「わかんない」
「でも、きれいだね」
みんな言葉数、少なくて、着陸までの間ずっと眺めてた。
さっきまでの寂しい気持ち、まだ残ってたけど、でも胸がなんか暖かくなって、涙がでた。

海の近くの平地に着陸すると、すぐに《舟》に連絡、すぐには探査船から出ず、待機する。
しばらくするとツカサさんから連絡が入った。
「各調査員に連絡です。この星は防護服は着用しなくても問題ありません。また、非常に朝夕が激しく、海面が最大で50m上下することがわかりました。まずは海面から十分な高度にあるところに安全な場所を確保してください」
外に出ると、青い空に浮かぶおおきなガス惑星と、ふたつの太陽が見えた。一つは白くて、もう一つはピンク色。頬をなでる風はなま暖かくて、濃密な潮のにおいがした。
うたちゃんが、やれやれって感じで「今回はさあ、私たちもみんなまじめに調査するんだね」言った。
いつもは資源採掘用のドローンがやってくれてたけど、今回は居住可能かどうかの調査もある。
《杜の蔵》も『人の手も借りたい』っていうことみたい、
華さんがツカサさんに聞いた。
「着陸時に、白いものが大気中に漂っているのが見えたのですが、ツカサさんわかりますか?」
ツカサさんの耳がピョコピョコ動いた。
「いえ、現時点ではわかっていないようです」
華さんはちょっと肩をおとした。便乗して私も質問した。
「あの、ツカサさん、私からももう一つ聞いていいですか?」
「着陸する直前、星が光ってるように見えたんですけど、文明があるんでしょうか」
「……わからないけど、光については《舟》からも調査できるか確認します」
《舟》側もまだ詳しいことはわかっていないみたいだし、とにかく高いところに移動しようということになった。

∞∞∞

斜面を登りつづける。遠くに海が見渡せる。空は青く、海との境界が曖昧だった。
この星の地表は、あまり見たことのない形をしていた。いくつもの層を重ねたような、そんな構造をしている。表面には、海綿状の生物が密生していた。
若葉のようなつややかな黄緑をした、ブドウの房のような形をしたもの。
茜色の、ぴらぴらしたひげのようなもの。
瑠璃色の花弁を幾重にも重ねたようなもの。
真っ白い毛糸玉のようなもの。
枯れ枝のようにいくつも幹を分岐させたもの……。形状も色もさまざまだった。
生物がはりついた基部は、きらきらした鉱石になっていて、どうやらもともとはこれらの生き物の骨格だったらしい。解析にかけると、主成分はフッ化カルシウムだとわかった。
「満潮のときに海からミネラルを取り込んでいるんでしょう」とは華さんの言葉。
鉱石の純度は、生き物の種類によってまちまちなようだけど、総じてかなり高いみたい。
何よりも結晶が大きい。
きっと、気の遠くなるような長い時間をかけて、この大きさにまで成長したんだと思う。

太陽がひとつガス惑星の陰に隠れ、もうひとつの太陽も、もう小半時もしたら隠れそうだった。
海から吹いてきていた潮風は、今は凪いでいる。

「そろそろ寝泊まりするところ確保しないとね」ってウタちゃんが言って、高台の平地を探すように促した。
適当な場所を見つけると探査機に位置情報を送って、自動操縦で呼び寄せた。
二つ目の太陽がガス惑星の陰に隠れる前に、探査船もやってきて、ようやく一段落した。

「ふたりとも、お疲れさま」こういうとき、ウタちゃんは気を利かしてねぎらってくれる。
ウタちゃんのこういうところ私、好きだ。
「けっこう暮らしていけそうじゃない?この星でもさ」
ウタちゃんの言葉に、私と華さんはうなずいた。
「そうだね」
岩にへばりついていた生き物も採集した。調べれば明日には、食べられるかどうかもわかると思う。
食べられるのであればきっと自給自足も目処がたつ。
「生活レベルは落とさないといけないだろうけど、ね」
「そうだねえ」
「まあしょうがないか」
生活……ここでの生活が現実味を帯びてくる。
私だけじゃなくて、《舟》に乗る人たちにとって、《舟》は故郷だ。私は二人に聞いてみた。
「二人はさ、どうする?」
「私は……残ります。《舟》のシステムに寄り添うのが私の唯一の役割ですから」
華さんは言った。
「私は……わかんない」
私は下を向いていった。
そしたらウタちゃんが私と背中をはたいて言った。
「まあ二人が割り切れないのはわかるよ。割り切れない気持ちもあるよね。でもね、《舟》に残るのは、ゆっくりと自殺するのと同じだよ。《舟》に残っても、もう資源の補給はできないんだから」
ウタちゃんの言うとおりだ。《舟》は銀河から離れる方向に飛び続けてきたし、それで今いる場所が銀河の一番外側の端っこまで来てしまったから。ここから先には何もない。
「たしかに、ここ暮らすってのもありだけど」
言葉が続かなかった。
「まあこればっかりは、簡単に割り切れるものでもないしね」
「そうじゃなくて、私……悔しかったの」
私、なんで生まれて、何のために生きてるのか、生まれる前から勝手に決められてて、でもそれを知らないで生きてきた。それを知ったときにはもう、その目的はどうやっても達成できないんだってわかったこと。悔しくて私、涙が流れた。

二つ目の太陽が沈むころ、空の色は青は刻々と暗くなっていく。
そのとき華さんが「ねえ二人、ちょっと下見てみて」と言った。目を擦って、華さんの横に立って高台から見下ろす。
辺り一面、淡い紫色に輝いていた。
その光に照らされて、岩肌にへばりついていた生物たちが、白いふわふわを幾千幾万と吹き出していて、まるで雪のよう。このふわふわは、着陸するときに見たやつだ。
声が出なくて、私たち3人とも、ただそれを眺めるだけだった。
見たことのない景色、見たことのない風景、どんなにものごとを知ったつもりになっても、知識を集めても、見たことのないものはやっぱりまだまだあるんだと思った。私が頭の中に描く自然、その外側から自然は耐えることなく訪れて、私を繰り返し驚かせる。

「調査結果が出ました」とツカサさんが言った。耳がぴょこぴょこ。
「まず、星に到着したときに見たという白いふわふわについてですが、別の調査ユニットの方で、サンプルを回収して調査できました。結論としてはおそらく、この星の生物の卵です」
ツカサさんは続けて言った。
「次に星が光る現象ですが、これは《舟》からも観測できました。正体は何かしらの蛍光。スペクトルの形状、また日没してしばらくしか見えないことから鑑みて、おそらくは地表に大量にある蛍石が光っているのだと推定されます」
「……蛍石?」私は聞いた。
「はい。フッ化カルシウムの結晶です」
そのとき、思い出した。以前アーカイブで見た、「珊瑚」という生物について。
「産卵……白いふわふわは、珊瑚の産卵だ」
以前アーカイブで見た、かつて母星に生息していた「珊瑚」と呼ばれた生き物のこと。
岩にへばりついていた生き物は珊瑚に似た生物だ。白いふわふわはきっと珊瑚の産卵だ
母星の珊瑚と一つ違うのは、この星の珊瑚は海にではなく空に産卵している。
もう一つ違う点、それは骨格が石灰質でなく、フッ化カルシウム、別名蛍石だということだ。蛍石は紫外線を吸収してしばらく蛍光を発するらしい。この生き物、名前をつけるなら《蛍珊瑚》ってところかな。

「蛍石? ちょっとまってこれ、光学レンズの材質だったはず」ウタちゃんが言った。
三人、顔を見合わせた。
「素材、持ち帰ろう」

ツカサさんに作戦を提案する。内容はこうだ。
蛍光を《舟》で観測することで、珊瑚礁の場所を探す。そこが巨大な珊瑚礁、もしくはかつて珊瑚礁があった場所。いずれにせよ、蛍石がそこにある。次にその場所で不純物を含まない5m大以上の大きさの蛍石を探索、採掘し《舟》に持ち帰る。
回収した蛍石はレンズに加工して、望遠鏡のレンズを取り替える。

翌日からの9日間で作戦は手はずよく進んで、5m大の不純物のない蛍石の結晶を回収することができた。

∞∞∞

1980年代になって、宇宙には銀河が集中して存在する領域と、ほとんど天体が存在しない領域があることがわかった。それぞれ銀河フィラメント、ボイドと呼ばれ、全体としては泡のような構造になっており、この構造は宇宙大規模構造と呼ばれている。
また近年では、ボイド領域内にもわずかながらに銀河が存在することが観測されている。

∞∞∞

ウタちゃんへ

ウタちゃんのおかげで、蛍珊瑚からつくったレンズは、無事は望遠鏡にはめ込めたね。ありがとう。
あの後華さんと私で、観測を始めたけど、期待していたとおり観測精度は大きく向上しました。
恒星天を観測すると、母星の観測とわずかな視差が観測できて恒星天までの距離がわかりました。
距離にして、おおよそ1~2億光年です(遠い!)。
それと、視差が見られない光の渦もありました。それはつまり距離がいろいろあるということ。2億光年よりもずっとずっと遠くの星もある。今まで、恒星天は天球にへばりついているイメージだったけど、実際はそうじゃないみたいです。

私たちの銀河は、たったひとつじゃない、特別じゃない。
そんなふうに思います。
恒星天の光の渦、あれ一つ一つが私たちの銀河とそっくりだし、今はあれがどれくらい遠くにあるのかもわかってる。宇宙は、以前思っていたよりずっとずっと大きくて、私たちは、ほんとはずっとずっとありふれたものなのかもしれないなって。
だから宇宙背景放射も、宇宙が大きな黒体の中なんじゃなくて、本当に膨張宇宙の証拠なのかもし……。空想は広がるばかりだね。

最後の連絡はテキストにしてみました。手紙ってやつだね。
音声もホログラムも疑似感覚も、何でもやりとりできるのに、わざわざ文字だけで伝えるというのはウタちゃんは古臭いと思いますか?
たしかに非効率です。私、全然言葉が出てこないし、この手紙ももう10日も書いては消し書いては消し……。
でもまあ。変わっていくものと、変わらないものがある。それだけなんだと思います。
(でも書いてみると意外と楽しかったです。不思議!)
大切なのは、言葉の後ろにあるもの、言葉より先にあるもの。うまくいえないけど。やっぱり私、言葉で説明するの苦手みたいです。

いままでいろんな星を渡ってきたね。見たこともない景色や生き物、掘り出された歴史、そしてこの宇宙のこと。
思いもしなかったもの、想像もしなかったものを私、これからも見ていきたい。その驚きを私は手紙のように書き留めて、誰かに渡していくんだと思います。

これからもずっと。
蛍珊瑚の星で、どうかお元気で。

さようなら。

 

春霞

文字数:22312

内容に関するアピール

銀河の梯子渡しは小川先生がゲストの回に提出した梗概をもとにしています。

もともとは「変な世界」のお題が出されたときに、

ボイド銀河に地球みたいな星があったらどうなるかというアイディアを考えたのをきっかけにしています。

また「変な世界」のときの参考図書に夜来たるが上げられていたので基本的にその展開をなぞるようにしてみました。

つまり、現実からずれた世界観をもつ人々が、最後にわたしたちと同じ世界観を手に入れる、というような流れにしています。

梗概で出したときはもうちょっとひねくれたオチを考えてたんですが、ちょっと不評のようだったので、実作では当初考えてたラストにしてみました。

文字数:284

課題提出者一覧