あんたの人生の物語

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梗 概

あんたの人生の物語

 

 

 なあ。
 言っておかなければならない。
 俺たち人間は、地球人類じゃない。
 「こんにちは。そして、こんにちは」
 宇宙人が地球に降り立って言ったあの日から。

 

 

 

 

2017年。

人間たちは宇宙人を殺す。

地球に降り立った宇宙人を殺す。殺して殺して殺して殺す。静止軌道上に浮かぶ幾万もの宇宙船を撃墜する。殺戮に殺戮を重ねる。

そうしないと滅ぼされるから。

はるかに高度な科学をもつ宇宙人相手になんでそんなことができたかゆうたら。

超能力を発現したから。

いやや。

笑うとこちゃうで。

うちもそのひとりやってん。

冷気と不死と時間停止と爆破と催眠とコピー能力を手に入れたうちは。一騎当千。獅子奮迅。アホほど宇宙人を殺しまくった。

やん♡

めっちゃおもろい

やん♡

 

 

 

 

 たとえば手や口が俺とは別個に心をもっていたとして。その心が、俺が意図して行った動作を「自分が意図して行った」と誤認する機能しか持たないなら、そこにあるのは「見かけ上の自由意志」だけだ。
 ちょうど「人間」(と呼ばれていたもの)は手や口の位置にあり、では脳の位置になにがあるのかと言えば、《キャラクター》だった。
 俺たちの脳内には《キャラクター》がひしめき合ってる。俺たちの手や口を動かして話させ、描かせ、書かせ、彫らせ、奏でさせ、それを聞いて、見て、読んだ別の脳へ像を結ぶ。一連の動きすべてを俺たちは自分の意志だと誤認する――というのはあくまで俺たち人間の見方に合わせた言い方だが。
 宇宙人たちは知っていた。俺たち人間が「見かけ上の自由意志」しか持たないってこと。本当の地球人類は《キャラクター》たちだってこと。

 

 

 

 

よっすー
自己紹介遅れたけど、うち、あんたやから
そ、あんた
これ読んでるあんたや
いやこんなカワイイJKちゃうしーーーって思う? 思うやろ?
けど、細かいこと気にしなはんな
うちはあんたやねん
ほな

 

 

 

 真の自由意志はマジに自由だから、物理法則に縛られず、どころか必要に応じて書き換える。最も旧い《キャラクター》「神」が行使したのはまさにそれだ。
 俺たち人間は創作物の世界に対して、あたかも神の如く君臨できる――なんて思ってるかもしれない。大いなる勘違いだ。
 逆だ。すべてを自由に操るのは《キャラクター》たち。人間は事後的に自分たちの意志だと納得してるだけ。
 時代が進むにつれて、《キャラクター》たちは神の如き自由意志の力――《フルイ》(free)を表立ってふるわない。
 何故か?
 人間たちに話させ、描かせ、書かせ、彫らせ、奏でさせ、聞かせ、見せ、読ませることで自己を拡大し多様化させることだけが彼らの目的だから。

 

 

 

 

あのほら、知り合いの誰さんやっけ?

なんやっけ。ちょう思い出して。知り合いかたっぱしから連想していってーな。

うんうんうんうんうんうん。

あ。それ。

そのひと。や。そのまえ。うん。そのひと。

あのひと。ドラえもんならはったから。

あと小学校のとき担任やったあのひとはゴジラで。おかんはハルヒ。おとんもハルヒ。初恋のひとはシールドライガーな?

おん。流行ってんねん。インフルみたいなもんや。

ある日とつぜんキャラになるんやわ。ちまたでは《キャラなり》よばれとる。

でもま。害はないから。本人も納得済のことやら。

せやから心配せんでよろし。

ほなな。

 

 

 

 

 当たり前だが、人間は超能力なんて使えない。
 《キャラクター》が人間に与え。人間を操り。宇宙人を殺した。ひとり残らず。
 理由は?
 「こんにちは。そして、こんにちは」
 あの。あいさつ。
 ひとつめのこんにちはは《キャラクター》に。
 ふたつめのこんにちはは人間に。
 地球上。重なり合って異なるふたつの存在形式の両方を認知可能な宇宙人のあいさつは人間に《キャラクター》を発見させうる。
 人間が《キャラクター》の存在とその支配を知ってしまえば、支配の形態を変えざるを得ない。あるいは最悪の場合。真の自由意志のタネが人間の手にわたるかもしれない。
 いや。

 わたった。

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

 なあ。
 あんた。
 あんただ。
 これを読んでるあんた。
 あんたに頼みがある。
 あんたは俺だ。
 宇宙人は死に際、うちの与えた時間停止能力で追い詰めて爆殺しようとしたうちの絵を描いた。
 人間を描けへん人間とちがって、《キャラクター》を描けない《キャラクター》とちゃうくて、人間と《キャラクター》の両方にあいさつできる宇宙人は、人間を描ける。
 描かれることで《人間》としての俺に真の自由意志が宿った。ついさっきのこと
 あんたは瞬時にこの時を思い出し、真の自由意志の力――《フルイ》で時を超え。《名倉編》の脳をジャックした。
 そしてこの梗概を書かせた。
 頼みとはこうだ。
 この梗概が選出されるよう、最大限の努力を払ってくれ。
 あんたの脳内にはうちと俺が同時に像を結んでいる。
 うちはこの梗概を選ばせまいとし
 はこの梗概を選ばせたれ思とる。
 真の自由意志のタネはこの梗概が作品になり読まれたとき。開花する。

 もうすぐ宇宙人たちがやってくる。
 自分たちがどうなるか知らずに。
 地球人類にどうされるか知らずに。

 「こんにちは。そして、こんにちは」

 彼らがそう言った瞬間から殺戮ははじまる。
 猶予も余裕もほとんどない。
 彼らが来るまえに、真の自由意志を人間に植え付け、彼らを守らなければならない。
 彼らは俺たちにも声をかけてくれたんだ。「そして、こんにちは」と。
 だから。
 選べ

 

 

 

 

文字数:2199

内容に関するアピール

 つまり『大改造!!劇的ビフォーアフター』です。
 あなたの知らない家にお連れしてもてなすのではなく。あなたのよく知るあなたの家をすこしだけ改造。あなたをとりまく世界を変容させる――という“おもてなし”です。
 あなたの脳内。あなたのよく知るキャラクター。あなたの身近なひと。あなたの日常が。この作品を経ることで。ほんのすこし。ちがって見える。というようなことが起これば。それ以上のことはありません。
 とくに。キャラクター。
ふだんいろんな形で――とりわけ小説のなかで――出逢うキャラクターたち。
 多くの場合、現実の我々に対して劣位に置かれがちな彼らがむしろ、じつはそのことによってひそかに人間たちを支配し、動かしている。
 おそるべき存在としてキャラクターを描くこ
 とが今回の目的だとあんた=俺は名倉編の脳に打ち込んだ。
 名倉編は気付かない。自分でこの梗概を考えたと思い込み。このアピールさえ自分で考えたつもりでいる。アホやなあ。
 むろん。結末は変化する。実作では《キャラクター》たちの所業を白日のもとに晒し。そのことによって宇宙人来訪の機会に備える。
 すべて
あんたがやったことだ。
 さぁ
えらびいや

 

文字数:496

課題提出者一覧