三時間寝太郎、他1篇

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梗 概

三時間寝太郎、他1篇


三時間寝太郎

「つらいわー、ここんとこあんま寝てないからなー。昨日は、三時間も寝ちゃったけど。いや、確かに三時間も寝ちゃったけどねー、一昨日もその前も三時間だからさー。毎日三時間だからさすがになー」
 舞台は業績不振にあえぐ小企業。毎日の睡眠時間が三時間であると喧伝することで、周囲から「三時間寝太郎」という蔑称で呼ばれる男がいた。ぶつぶつと独り言を呟きながら1日に何度も社内を徘徊するばかりか、何かにつけて少ない睡眠時間を誇り続ける寝太郎に周囲の者は苛立ち、またはあきれ、特筆すべきところのない凡庸な同僚さえ「はよぅクビになっちまえ」と寝太郎を疎んでいた。
 寝太郎は、ある日突然会社を飛び出し、山に上って巨石を動かす。その巨石は谷を転がり落ち、川をせき止め、川の水が田畑に流れ込む。かんばつに悩んでいた村の田畑は、寝太郎の功績により水を獲得した。というのは比喩で、寝太郎は電撃的に新技術を開発し大きな商談をまとめあげ、経営を軌道に乗せたスーパーヒーローとなる。
 寝太郎は豊富な非睡眠時間を活用し、いかにして会社を消滅から救うか画策していたのであった。その心意気は素晴らしいが、現実の寝太郎は服務規程違反により会社から解雇通告を受ける。なんと、前段落の内容は寝太郎が勤める企業が開発中の、対象に望み通りの夢を見せる機械「夢見るシャンソン人間(ブランコ・ギャル)」の暴走が見せた幻覚で、現実の寝太郎は睡眠不足から勤務時間中に舟を漕ぐばかりだったのだ。睡眠は大切にしたいものですね。


ボブ取りJソン

 はるか未来。医療技術や科学技術、そして機械技術までもが恐ろしいほど発達し、他国と比べても全ての面でトップクラスを誇るとある王国で、「ボブ」姓が人口の20%を突破。
 ある日、若年のボブ王は自身と同じ姓を持つ人間がたくさんいることに怒りを覚え、ボブ姓の人間を効率的に「見敵必殺(サーチ&デストロイ)」する驚異の計画(ワンダープロジェクト)「J」を始動させる。開発された兵器「Jソン」を装着した人間は、出会った人間の本名を強制的に聞き出してボブ姓ならば殺す殺戮機械となる。大量生産されたJソンによりボブは激減。誤ってボブ王もJソンに殺され、やがてボブ姓は絶滅した、かに見えた。
 数年後の13日の金曜日、山奥で本名を隠して暮らすオンコウ・ボブは、山中で雨に降られ洞窟で夜を明かすことに。その夜、洞窟前ではボブがいなくなり職にあぶれたJソン部隊の宴が開催。ダンスフロアーと化した洞窟前広場に流れる聞いた事もないファンキーサウンド。胸騒ぎを抑えきれないオンコウは勢いよく飛び出してフリースタイルな舞いを披露。「マジ泣けたっす」と騒ぐ観衆。もう一度ダンスが観たいリーダーのUバーバは、Jソンの裏機能「ブギー・バック」を用いてオンコウの本名を奪い、「また踊りに来たら名前を返す」と脅迫。
 オンコウの隣に住んでいたイジワル・ボブも、本名を奪われようと宴に繰り出す。しかし、ダンスはうまく踊れない。Jソン部隊の怒りを買ったイジワル・ボブは死ぬ。元オンコウ・ボブも何年か後に死ぬ。Jソン部隊もやがては死にゆき、その子の代も孫の代もいつかは死ぬ。いつしか世界から生物は消える。

文字数:1321

内容に関するアピール

 2015年11月、「ただようまなびや 文学の学校」(★1)というイベントのシークレットゲストとして登場した作家・村上春樹は、トークイベントで他の登壇者に「山田悠介の小説を読んだことがあるか」を尋ねました。その日の午前中に郡山市内の高校を見学した際、村上春樹と話した高校生の中にとにかく山田悠介作品を絶賛する生徒がおり、気になった、ということでした。
 2012年に中高生を対象に実施された「学校読書調査」(★2)の「いちばん好きな作家は?」の質問項目において、中学生・高校生ともにトップは山田悠介。また、高校生の「読んだことがある作家」という項目では山田悠介の名前は51.2%。この傾向は何年も続いています。
 という訳で「ボブ取りJソン」では、現代日本の若年層なら「誰もが知っている物語」に近い、山田悠介のいちばん売れたデビュー作の設定と日本の昔話などを元にしました。
 日本の昔話は本に収録される際、複数の話がまとまっていることが多く、2篇の梗概を提出しました。実作は合わせて50枚を想定しております。著作権が消滅していない既存作の設定を流用し過ぎて問題があるようでしたら、「三時間寝太郎」の職場での仕事ぶりの描写に紙幅を費やし、実作では1篇のみを提出いたします。


★1:http://www.tadayoumanabiya.com/
   なお、今回の課題提出とは全く関係ないが、私(升本)は上記イベントを参観した際、偶然隣に座った初対面の男性に話しかけ、その日の夕飯を共にした。その男性とは、本SF創作講座受講生のトキオ・アマサワである。
★2:『読書世論調査2013年版』毎日新聞社

文字数:690

課題提出者一覧