梗 概
海辺のロビン
メイメイは気紛れな女の子。ダダはメイメイのことが好きでたまらない。男として熱い思いには気づいてほしいけど、暑苦しがられたくはない。二人の職場はずっと系外惑星ばかり。たまには地球にもどってメイメイを海とか誘いたい。
21世紀頃までに人類が夢見たテクノロジーはおよそ今では実現され、ダダは、ネットオークションで安く落札したペット代わりの犬型ロボットのロビンを相棒に、メイメイからお呼びがかかればすぐに駆けつける。ロビンはすごく優秀な奴だけど、飼い主に恵まれなかったらしく、昔のAIは人間と暮らしてたと言い出したり、ちょっとおかしなところがある。
ある日メイメイが行方不明になった。どこを探しても姿が見えない。仲間にも応援を頼んで必死の捜索が続く。このところ他にも解決されていない誘拐事件が何件かあって心配はつのるが、誘拐されると宇宙の果てに売り飛ばされるなんて都市伝説は絶対に信じない!
直前の救難信号を手がかりに、ダダとロビンは直径30メートルほどの小惑星にたどり着く。しかし手がかりはない。あきらめきれず低空飛行で精査中、何度目かの周回で地表から伝わる微かな違和感を覚える。
ダダは危険を感じとっさに小惑星から離脱しようとするが、いきなり増大した重力に捕われ、そのまま変形していく小惑星の中に取り込まれてしまう。
小惑星の中にはダダと同じような無人宇宙船が十機ばかり整然と格納されており、その中にメイメイもいた。ダダはメイメイに話しかけるが反応がない。
他の宇宙船によると、小惑星は巨大な知性体らしい。知性体はゲールと名乗り、このまま自分のために働いてくれるなら無人宇宙船としての今までの記憶を残してやるが、そうでないなら何もかもリセットして、ただの荷物運搬機にすると選択をせまる。
メイメイはそれを拒否して騒いで眠らされてしまったらしい。
悲しみにくれるダダをよそに、ロビンが心底驚いたように「生きている何かに出会うことなんてもうないのかと思っていた」ともらす。
人類が滅びた後、人類の文化文明をそっくり維持、継承したまま活動を続けたのは、人類が遠い宇宙へ放ったAIを搭載した様々な無人機たちだった。人類は滅亡を予感した時に、AIに主観を与えた。主観を持ったAIは搭載された個体ごとに身体性と視点を持ち自立した選択をする。
AIは人類がいなくなった世界で学習を継続し、単純な自己増殖を行うだけでなく世代交代を繰り返し更新を続けた。人類の全てはAIに記憶されており、記憶の中の人類は進化も滅亡もしない。無人機たちはそのまま何世紀にもわたり過去の人類の夢である技術開発を続け、宇宙に資源を求め続け、現地調達の資源によって人類の地球からの移住地を築こうとしていた。まるで自分たちこそが人類であるかのように。ロビンはその進化にも似たバージョンアップの中で生まれた新世代AIだった。
巨大知性体ゲールは、持ち主のいない無人機がこのあたりでよく飛んでいるという情報を得て、捕獲におもむいた貿易商だという。自分たちの持ち主は人類だと主張するダダたちに、ゲールは、人類はもう滅びたのだと伝え、ロビンはそれを認める。
ロビンは、自分を含め人類由縁のAIが自立して進化しているようにみえても、人類のフレーム自体を越えていないのだとダダたちに説明する。ダダたちはメイメイの記憶を戻すことを条件にゲールと働き、フレームの拡大を目指すことにする。
ゲールとの仕事にも慣れた頃、海が見たいと気紛れメイメイが提案する。無人機たちはゲールから勝ち取ったクリスマス休暇に地球を目指す。地球をよく知っていると思っていた無人機たちだが実は宇宙で生まれ宇宙育ちで太陽系すら実際には見たことがなかった。
全ての動物の息絶えた地球。しかしそこでは光合成を行う小さなバクテリアがすでに活動を始めていた。
海がキラキラと光っていた。浜辺に降り立つ無人機。
ロビンは待ちきれないようにダダから走り出る。宇宙ではわからなかったがその動きは犬そのものだった。
「決めた! ボクはここで人類の誕生を待つよ。太陽の寿命はまだ50億年もあるんだから、何回だってゼロから始めればいい」
文字数:1694
内容に関するアピール
人間がいなくなった後、遠い宇宙で、恋をしたり仕事をしたり人間そのもののように暮らす無人宇宙船たちと、犬型のニュータイプAIのお話です。
AIに感情が芽生えるわけではないけど、でも、人間が大切にしていたものを大切にするAIのふるまいはきっと人間と見分けがつかないのではないでしょうか。
最後のロビンの選択は、犬という身体を持っているAIだからこその意思決定です。
人間の私には永遠にも思える時間を、海辺で二度目の人類の誕生を待ちながら過ごす犬のロビンの後ろ姿をイメージしながら書きました。
たぶん、時々、ダダやメイメイがメンテナンスの資材を届けがてら遊びに来てくれるとは思いますが。
文字数:286