梗 概
悠久の片思い
ついに、その時が迫ってきた。100年に一度の機会である。
数百年前、ドルミーレ星では1人の美しい王女を巡り、12人の諸侯が対立を起こしたという。彼らの争いは国を乱し、混迷を極めたその時、争いに加わらなかったある諸侯が、原因である王女をコールドスリープし、宇宙船で打ち上げることで、ようやく収束が図られたという。
王女を乗せた宇宙船は、今も光速でドルミーレ星を巡る軌道を回っており、100年周期で接近してくるらしい。そして、今日が最も接近するタイミングなのだという。
ミゲルはしがないロケット修理工であったが、仕事柄、宇宙ロケット工学には精通し、運転の腕も確かだった。彼は光速ロケットを密かに開発し、王女を救い出そうと考えていた。すでに王政は倒れ、いずれどこかで墜落するであろう王女の安否を真面目に考える者はいない。それどころか、実話かどうかすら疑っている人が大多数だ。しかし、退屈な日常から救い出してくれる存在として、ミゲルは王女の存在を信じ、憧れていた。
「哀れな王女を救い出せば、彼女はきっとボクのことを好きになるはず」
ロマンティックな妄想は彼を奮起させる。ミゲルは、たった1人、宇宙へ向け飛び立った。
光速のランデブーに成功し、宇宙船に乗り込むミゲル。船内を徘徊し、やがて、眠りにつく王女を発見する。しかし、スリープを解除するも王女は起きない。すると、ワラワラと6人の男たちが現れた。この数百年の間に、同じことを考えた者がやって来ては、住みついていたのだ。(後に、宇宙船を打ち上げた諸侯だとわかる)最も年配の男が口を開いた。
「機械が壊れてしまい、王女を起こすことができないのだ」
ミゲルとて、コールドスリープの機械は直しようがなかった。
宇宙船にやってきた夢見がちな男はみな、最初こそ失望を味わうが、やがて彼女の美しさと若さを見守ることに生きがいを感じるようになる。そして、年を重ねるとともに、ひたすら願うようになるのだ。
「彼女を救い出す運命の人が現れるその日まで、王女を守り抜くのだ」
7人の男たちは、いつ終わるとも知れない時間を、嬉々として過ごしているのだった。
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内容に関するアピール
概略は、「眠れる森の美女」かと思いきや、「白雪姫」だったというお話です。
言い換えれば、自分は「王子様」なのではないかと思いきや、結局は「小人」だったというお話です。
アイドルオタク的なメンタリティの話であると同時に、成就しない恋愛に通底する話でもあると考えています。
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