《中村紗千の2016年芸術の旅》ステートメント

作品プラン

《中村紗千の2016年芸術の旅》ステートメント

この作品では、今後の私の制作を旅と見立てていると同時に、
その旅そのものを抱えて生きていく、鞄の持ち主である私が想定されています。

 

物心がついたときから絵を描き始め、現在では大学で芸術を学ぶ私は、最近では自身にとっての芸術が、
一種の自己治癒のための手段として存在していたのではないかと自覚するようになりました。

このことを自覚すると同時に、しかしこれまで自分が、この自己治癒のために直接関係のあるようなエピソードや単語、モチーフを作品に用いることをほとんど回避してきたことに気がつきました。

何故なら私は精神分析のためでも、セラピーとしてでもなく、芸術として作品を作りたいと思っていたし、
そして芸術はいつでも間接的であるがゆえの力を持っていると考えたいからです。

その上で、それでも「自分をとりまく風景」や「日常を生きる私が浮かんだ疑問」といった、
あくまでも自己そのものからは遠のくことのできない制作態度を持っていたことに気付かされることになりました。

 

自己治癒のための制作行為を更に観察していくと、
そこには、これによって赦されたいと思うような気持ちと共に、これに腐心することによって自分という不全な人間が、
一歩でも良い段階に進めるのではないか、という願いにも似た気持ちによって続けられてきたことが見当たりました。
それは何か信仰のようなものとも似ているのかもしれません。

このようなことから発展し、お炊き上げのイメージが浮かびました。
さまざまな問題を寄せ集め、制作というひとつの動作によって祈るように昇華させようとする行為として、この作品では用いました。

私は、その昇華行為から吹き上がり、更にもっと遠くへ旅にでようとします。
ロケットは天井がない世界を意識させるものであり、
打ち上げられるイメージに対して着地するイメージが浮かびにくいものなのではないかと思います。

 

私の問題を、人間と芸術の普遍的な問題へと昇華するために、私は旅に出ます。

 

 

10_中村紗千_中村紗千の2016年芸術の旅

文字数:810

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