《日本の素晴らしさを世界に伝える旅》ステートメント

作品プラン

《日本の素晴らしさを世界に伝える旅》ステートメント

以前,会田誠さんの授業で天皇をゆるキャラに見立てた作品を作り,プレゼンの中で独自の反天皇論を述べた私に対して,黒瀬さんが「菅谷さんが天皇について話してると,どう見ても右翼の演説にしか見えないw」と仰った。私自身は自分のことをリベラルと定義しているつもりだったが,決して頭が良さそうには見えないこの風貌のせいか,どうがんばっても右翼にしか見えないらしい。正直がっかりしたが,それならばいっそのこと露悪的に熱狂的な右翼・愛国者を演じ,そのことで右翼的なものの滑稽さを表現してはどうか。また,日本について良いと思われていることは実は日本のダメな部分と裏腹で,右翼の日本礼賛に耳を傾けることで逆に日本の問題が浮かび上がってくるのではないか,このような思いつきから今回の作品が生まれた。


私の旅の目的は,世界に日本の素晴らしさを伝えること。日本には長い歴史と伝統に基づいた優れた知識や技術が溢れている。また,世界一正確な鉄道や,東日本大震災での人々の秩序ある行動,街中で財布を落としても戻ってくるなどの例を挙げるまでもなく,日本人の規律や道徳心は世界の手本になるべきものだ。日本の素晴らしい点を世界の国々に伝えることで,それぞれの国が抱える困難や問題を見直すきっかけにしてもらいたい。

私が訪れる国は,ギリシャ,インド,アメリカ,イラク,シリアの五カ国。勤労意欲が低いことで有名なギリシャでは,世界でも有数の長時間労働を誇る日本人の仕事好きについて紹介する。秩序という言葉を知らないインド人には,議論を必要とせずとも自然と秩序を生成する「空気を読む」という文化を紹介する。人種間の軋轢が社会問題になっているアメリカでは,単一民族国家である日本が行っている認定率1%以下という日本の難民政策について紹介する。シーア派とスンニ派の宗派対立から内戦に陥っているイラクでは,正月は神社に初詣に出かけ,仏教式の葬式を行い,教会で結婚式を挙げるという日本人の宗教に対する寛容さについて紹介する。最後に,アサド政権,IS,有志国連合の三つ巴の戦いが繰り広げられているシリアでは,戦後日本を戦争に関わらない平和で安全な国にしてくれた「憲法9条の道義的権威」について紹介する。

私の旅のお供である旅行鞄は,私の愛国者としての思想を形成したいくつもの本を縫い合わせて作られている。わざわざこのようなことをしたのは,常に肌身離さず本とともにあることで,その思想を内面化するためだ。これらの本を「日本スゴイ本・日本エライ本」と呼んで揶揄する連中もいるが,そんな反日サヨクの言うことを気にする必要はない。私はこの鞄とともに世界中を飛び回り,日本の偉大さ,日本の素晴らしさを伝えていきたい。


このようにして意気揚々と出発したものの,この後の旅の中で,心の中で見下していた国の意外な良い面や,日本が世界からどのように見られているのかという実情を知り,徐々に無条件の愛国心が揺らいでいく。十分に相対化され帰国したのちにもなお残る,真の日本の値打ちとは? 

 

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