梗 概
テクノジャンキー
主人公は双子の兄弟マウスとハウス。
ハウスは大学生の時にドラッグを大量服用した状態で音楽ミックス用のサーバーと自分の電脳を接続してしまったせいで、テクノジャンキーになってしまった。
ハウスはその独創的な作曲で名声を得て、今は作曲とネットDJを生業としている。
ハウスは共感覚の持ち主で、普通に生きているだけでミックス音源が絶え間なく生まれつづける人間ジュークボックスだ。その代わり、一人では日常生活にまつわることが何一つ自分ではできない。双子の兄のマウスはハウスの介護をしながら、彼の曲を売るマネージャーの仕事をしている。ハウスの介護もある、ストレスフルな生活だ。
ある日、マウスのところに抗議文がくる。
ハウスの曲が軍事ドラッグとして使われているというのだ。
ハウスの曲を聴いた人間はアドレナリンが著しく上昇して、四肢を失い鼓動が止まるか脳死するまで戦地で動き続けることができるという。
マウスはその痛ましい抗議文を見て動揺し、ハウスにそれを見せるも、音楽のこと以外考えられないハウスはまるで反省する様子がない。
マウスはハウスの曲の買い取り先であった音楽配信会社に連絡する。
もちろん、ハウスの曲を軍事転用するのをやめさせるためだ。しかし、音楽配信業者は軍事産業のいまだかつてない規模の金額に目がくらみ、取引をやめようとはしない。
逆にマウスは音楽配信会社から多額の支援を表明されてしまい、その倫理観のなさに愕然とする。
その晩、マウスはハウスにオートミールを食べさせようと、がんばったが、ハウスは暴れてオートミールは床に散らばった。マウスは何もかもが嫌になり、抗議文を送ってきた人権保護団体にどうしてハウスがあのような人間になってしまったのかを弁明する手紙を書いた。
しばらくすると、マウスのもとに、その人権保護団体が訪れ、マウスを突如連れ去った。彼らはマウスに、ハウスと全く同じ処置を施し、マウスと同様、脳内でテクノを奏でられる人間に改造するという。人権保護団体はマウスに、これは戒めとしての罰だ、などと説明するが、マウスは音楽配信業者とのやり取りなどを経て、いずれ自分の音楽も軍事転用されて金になるんだろうということを理解する。介護に疲れ切っていたマウスは楽になりたい一念で、自らテクノジャンキーになる道を選ぶ。
テクノジャンキーになったマウスは、どうしてハウスが罪悪感を全く感じない顔をしていたのかがよくわかった。
何もかもが音に聴こえるのだ。銃声も、怒号も、悲鳴も。死体が地に投げ出される音も、女が犯される音も、血も肉も。
人間の生死に極端に興味がなくなり、目先の音のこと以外何も考えられない。
ハウスとマウスの脳は構造が同じであり、マウスにもテクノジャンキーの素質があった。
マウスは何も考えずにアドレナリンをまき散らす人間ジュークボックスとなった。
兄弟のアッパーな音楽が今日も戦地に流れている。
文字数:1190
内容に関するアピール
テクノミュージックは普通の音楽と違い、人のうめき声や日常の声を音楽に取り入れる。その意外さや絶妙さがそのまま聴く者の快感に通じていくのがテクノの面白いところだ。そういう意味で、テクノ音楽自体が人間の驚きの産物と言える。一方で全くテクノと関係ないが、最近声高に叫ばれている介護問題。前々から書きたいと思って物語を書いているうちに無縁かと思われたその二つが私の頭の中で狂気をフックに絡まってきたことに驚いた。さらにお金の問題も絡むとより華やかな印象になるのではないかと思い、ぶち込んでみたところ以外にもすんなりと、物語のかすがいとしてハマってくれたのでまた驚いた。最期に少しグロテスクな要素があればもっとワクワクするだろうと思い、ちょっと足してみたところ全体で見るととても血生臭い話になってしまったのでますます驚いた。実作はよりブラックコメディー感を押し出し読後の胃もたれに驚くような文章にしたい。
文字数:397