梗 概
石の音
コータは十三歳になる。一緒に住んでいるのは父のマナトと祖父母、柴犬のゴロー。海沿いの小さな村で暮らしていた。
マナトは以前、海洋探査の技術者をしていて、今はその調査で海から発掘された鉱物、山や川から発見された新しい鉱物、既存の鉱物、宇宙で見つかった鉱物、手に入る様々な鉱物から楽器を作っている。
母のチサは都会に住んでいる。マナトとは海洋探査の調査チームで知り合ったが、鉱石の採掘が海洋探査から宇宙での事業に潮流が変わったことでチサは都会に残り宇宙鉱物資源開発の一員として、マナトは鉱石の立てる音に惹かれ楽器職人を育った田舎で始めた。
コータは農業を営む祖父母の手伝いをしながら、ホログラムが映す教室で授業を受けて勉強する生活を送っていた。毎日ではないが、夜にはホログラムの母とも話をすることが出来た。
ある日、マナトの作った楽器(二つのひらがなの『と』を左右逆向きに向かい合わせ、『と』の下部分を繋ぎ合わせた音叉のようなもの)を叩くと不思議な音がした。
太陽系最古の鉱物から生まれた音は、部屋の中に響く。コータはホログラムでない母の姿を見た。
母に会いたい、とコータは父に言った。マナトはチサの住所をコータの情報端末に登録して、これも見せてやってくれと言ってその楽器を渡して送り出した。
空から都市へ向かう。旅客機の壁面ディスプレイに透過して見えた、母の居る街。巨大なビルの群の外壁に映された森が、山のように広がっていた。
都市ではコータの見たこともないほどの人に溢れていた。戸惑う中でぼんやりと楽器の音を聞くと不思議と母の方角が分かる。父に教えてもらった住所を頼りに目的地へ進む。
研究施設に着くと、受付で案内され母を待つ。七年ぶりに会った母はホログラムで見る姿よりも暖かく感じた。コータは施設内を案内してもらい、チサがどんな仕事をしているのか、大雑把だけれど大きな物として感じる。
外で食事をした後、コータはチサが一人で住んでいるマンションに帰る。そこでチサにマナトの作った楽器を見せると「あの人らしい」と言った。コータが叩いて見せた楽器の音に、少し悲しそうな顔をした後、一緒にお風呂にはいるかと聞かれる、コータは断った。コータは田舎で一人部屋で寝ていたが、チサと同じ部屋で眠った。
コータは三日間都会を歩き回った。コータにとってその三日間は体験したことのない楽しさがあった。三日目の夜、チサに言われる。「ここで暮らさない?」
迷うコータは翌日、チサの居ない部屋でそっと楽器を叩いてみた。すると父が、祖父母の姿が(それとゴローの姿も)映った。すっと染み込むような故郷を見た後、コータは母に告げる。
「父さんの仕事がもっと見たいんだ。手伝いをして、それでいつか自分の音を作って持ってくるから」
そう言ってコータは母の元を去った。
文字数:1166
内容に関するアピール
私の育った家庭を振り返った時、もし一緒に住んでいなくても通じ合える夫婦の子供だったらどう思うだろうと考えました。
コータに思いを寄せて、書き終えた後に自分が何を感じるかに驚きたいです。
また、小惑星を資源として宇宙開発が可能なまでに進んだ時代が舞台で、マナトの作る鉱石の楽器とその音、チサの住む街とそこから向かおうとする宇宙、それらのイメージをコータが通っていく物語を想像したいです。
文字数:193