梗 概
先代から続く三すくみの均衡は〈超人代理戦争〉の勃発により崩れ去る。須能組の若衆が浅倉組の幹部一名含む計六名を殺傷した事件を受け、手打ちの会合が執り行われるもこれは須能組が仕組んだ罠だ。須能組のドラァグクイーン超人キンキー・マウスによるかちこみに対し、二丁HAJIKIの天道仮面は身を呈して浅倉組組長を守り致命傷を負う。
天道仮面のスポンサー〈少佐〉とのパイプ役を担う浅倉組幹部の熊脇は、逃亡途中、天道仮面の正体が舎弟頭の西城だと知る。西城はかつて組長と五分の盃を交わした組の目付役であり、熊脇にとっては親同然の存在だ。
壺中組の超人、酔拳使いのドランク・コングが須能組との抗争で消耗したところを突いてくる。西城はドランク・コングに「俺の命はくれてやる。それで手打ちにしちゃあもらえねえか」と請う。ドランク・コングは既にいまわの際にいた西城を介錯すると、極上の酒『壺中天』を口に含ませて「あんたぁ真の男だよ」と告げ、約束通り熊脇らを逃す。
「熊よ、カタギに戻って愛する女と生きろ」
西城の遺言を受けて組長は熊脇に破門を言い渡す。しかしキンキー・マウスによる再襲撃のさなか、熊脇は組長に弓を引き西城の遺した天道ベルトを強奪、天道仮面二号に変身を遂げると、必殺の天道チョップでキンキー・マウスを葬り去る。
キンキー・マウスの断末魔の叫びを引き金に、一万体の宇宙怪獣が空を埋め尽くす。キンキー・マウスの正体は超人に扮した擬態怪獣であり、地球侵攻を目論む怪獣達の切り込み隊長だった。
超人スポンサー〈少佐〉から通信が入り、全てが明かされる。少佐は浅倉組だけでなく壺中組にも力を貸していた。怪獣の襲来を事前に察知した少佐は、地球を守る戦力として、天道仮面とドランク・コング、二つの力を育ててきたのだ。
「とはいえ分が悪いぜ、少佐。何せゴジラも驚きのデカブツどもだ」
「ヒーローが窮地に立たされた時、逆転の手段は二つだけだ。でかいロボに乗り込むか、てめえが巨大化するかのどっちかさ」
壺中組が浅倉組に一時休戦を申し入れ、ドランク・コングが天道仮面二号の隣に並び立つ。熊脇はドランク・コングの正体を知る。侠の名は安倍刀路、壺中組若頭であり、かつて熊脇が獄中で盃を交わした兄貴分だ。
「外様にでけえ顔させとくわけにゃいかねえ、そうだろ熊?」
「またあんたと組めるたぁうれしいねぇ、兄貴」
逆転の方策はこれで決まった。二つのパワードスーツに搭載された合体機構が共鳴し、天道仮面とドランク・コングは〈仁義合体〉によって合体・巨大化、腕っ節と度胸を併せ持つ無敵の天極キングになる。天極キングは地上に降りた怪獣どもをオトシマエ光線で一掃し、宇宙空間で百万の大群を迎え撃つ。
怪獣の残党を追って月に降り立ったキングを〈少佐〉が迎える。月に駐在する惑星危機管理者AI〈トム少佐〉に導かれ、キングは地球侵攻を煽動した主犯スペラ星人と対面する。虚弱体質だがその超高度知性から「宇宙弁士」の異名を持つスペラ星人はちゃぶ台を挟んでキングに語りかけ、詭弁で籠絡しようとするが余裕で無視だ、地球の流儀で小指を詰めてきっちりケジメをつけさせる。「次また俺らのシマに入ってみろ、コンクリに詰めて東京湾に沈めんぞ」と脅すと、弁士は切断された小指からほうき星みたいに光る血を噴きあげながら、銀河系の外へ逃げてゆく。
文字数:1378
内容に関するアピール
コンセプト
ヤクザ業界における代理戦争(利害に関係する組同士の代わりに第三者同士の間で起こる抗争)を仮面ライダーやウルトラマンのような特撮系の超人たちが受け持つことになる話です。このコンセプトから導き出される以下二点の特色を作品の柱とします。
シュールな笑い
ヤクザ業界の風俗や専門用語と、対極に位置するヒーローものの文法、語彙とを悪魔合体させることで奇妙な笑いを生み出します。
エスカレーション
大筋としては「隣組同士で抗争していたはずのヤクザたちが、いつの間にか地球の命運を賭けて怪獣と戦う話」です。スケールの跳躍が大きいです。ほかにも奔放な展開の飛躍を多く盛り込んでいきます。
驚き
驚きのあるクライマックスは「合体」です。それまで敵対してバチバチにやりあっていた超人同士が、実は一つの目的のために作られた「兄弟」であり、最後は兄弟盃を交わしたヤクザ者二人の絆を介して合体、最強の巨人に変貌する――この場面に力を注ぎ読者の心を掴みます。合体は男のロマンなのでイケる気がする。
実作では
- ギャグとスピード感を重視し、一気読みできる痛快な読み味を標榜する
- ドラマと感情面の補強
- 「叔父貴と舎弟」、「兄貴分と弟分」などの関係性を活かし、男くさいテイストを滲ませていく
- 正義のヒーローになりたいと望んでいた少年時代を終え、いまはヤクザになった主人公の哀愁と生き様を書く
- キンキー・マウスの魔手にかかり散っていった西城叔父貴の宇宙葬を書く
備考
- 「トム少佐」はデヴィッド・ボウイの楽曲『Space Oddity』の歌詞のなかに登場する架空の宇宙飛行士の名。楽曲がリリースされたのはアポロ11号が月面着陸を果たした1969年。このことにちなんで本作の梗概の最後の舞台を月に決めました。
- 「スペラ星人」のネーミングは主人公が弱すぎることで有名な往年のアクションゲーム『スペランカー』から。
- 必殺技の「オトシマエ光線」は声に出して読み上げてみると「スペシウム光線」にけっこう似てます。
- 実作選出されたらオープニングテーマ『天道仮面は誰でしょう(仮)』の歌詞を書いてメロディをつけ、僕が歌います。
文字数:878