レンと、イリスの葬送

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梗 概

レンと、イリスの葬送

  大好きなミーカがいなくなっちゃった……。
  最高品質の完全なデータ葬をされたから、
  ミーカの記憶と配列の情報はカタ・コムっていう
  地下埋葬サーバーのなかに大切に保管されていて、
  だから会いたくなったらいつでも会えるんだって。
  でもね。やっぱりミーカのいない「世界」なんて、
  つまんないよ。

 特別な才能をもつ者を選抜し、隔離・育成する国策研究機関アカデミ。大好きな姉のミーカが選抜されて一人きりになった妹のレンに対して、周囲は姉のことは諦めて忘れるようにと説く。しかしレンはミーカとの別離を受け入れられない。
 二年後、ミーカがネットワーク接続中に切断死を遂げたと知らされ失意に沈んだレンは、部屋に引きこもり、親族接続権を行使してカタ・コムに常時接続し、埋葬されているミーカとの交流を続ける。
 しかし完全データであるユニ・パーソナとして保管されているはずのミーカに対して、レンは以前とは違う、何かが欠けているような違和感を覚える。
 遺品として返却されてきた、ミーカが死の直線に接続していたパーソナル・デバイスを起動させたレンは、モニタの向こうから呼びかけてきたミーカのアカデミでの友人だと名乗る甦術士(ネクロマ)のイリスと知り合い親しくなる。
 ハッキングを得意とするイリスの助力により、レンはカタ・コムからミーカのユニ・パーソナを盗みだす。闇のDIY工房で大型生体出力機を借りてミーカの甦生を試みるレンだったが、マシンスペックの限界を超えて無理やり出力されたのは、意思をもたない抜け殻のようなデジタル・ゾンビだった。
 レンの目の前で脆く崩れ落ちていくミーカ。さらに出力時の負荷によってミーカのデータは破損してしまう。ミーカとの三度目の、そして永遠の別離に絶望したレンに対して、イリスは「盂蘭盆会」まで待てばもう一度ミーカに会わせてあげると約束する。
 盂蘭盆会、その日だけはカタ・コム内に埋葬されているすべてのデータが解放され、家族のもとへ戻ってくる。そして、束の間の交流を懐かしむ……はずだった。イリスの言葉を半信半疑でミーカを待っていたレンは、現れたミーカのフラグメントから「一緒に遠くへ行こう」と呼びかけられ、その誘いにのって切断死を選ぶ。
 データとなった二人は再会を喜び、もう二度と離れないと誓い合う。
 イリスはミーカの指示に従って、ハッキングした大陸最大の干渉計方式電波望遠鏡「虹龍(hong long)」を使って二人を宇宙の彼方へ向けて送り出す。情報の波となって旅立つ二人を囲むように、カタ・コムから解放されていた無数のデータたちも空へと送り出されていく。その光景はまるで目には見えない宇宙への精霊流しのようだ。
 ミーカのデータの一部を宿していたイリスは、そのフラグメントを失って以降、自動プログラムによって起動していたが、最後の役割を終えるとコマンドに従い自らの存在を抹消した。

文字数:1199

内容に関するアピール

 とても大切な人と離れ離れになってしまい、もう二度と会えないかもしれないとして、もし再会できる可能性があるなら、そのわずかな望みに賭けてみたい。そんな可能性の低い試行錯誤が重なって、再び微かなつながりが生まれ、今度はゆっくりと時間をかけて関係が育まれていく、そんな小さくて可愛らしい物語を書いてみたいと思い、このような設定としました。
 課題にある「驚き」というものについて考えてみると、たとえば、どんでん返しや謎解きのようなものもあれば、課題文にも挙げられているように壮大なビジョンで魅せるなど、いろいろな方法があると思います。そのなかで今回は、目には見えない精霊流しのイメージで、無数のデータが流れていく光景を描写できたら綺麗だろうなぁ、と感じたこともあり、その場面を見せ場として描きたいと思います。
 イリスと虹龍には、虹の向こう側「Over the Rainbow」に旅立つイメージを重ねました。

文字数:398

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レンと、イリスの葬送(抄)

SF創作講座事務局よりお知らせ(2023.6.21)

本作品は投稿者の希望により、公開を停止しております。

文字数:52

課題提出者一覧