希望の国

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梗 概

希望の国

 アジアの片隅で二人の男が肩を寄せ合いながら、木の根元に座っている。
 どちらも日本軍の兵士であり、身につけている装備は何日も森の中を彷徨ったせいでひどく汚れている。
 周囲に人の気配はない。二人の所属していた部隊はほぼ全滅。命からがらここまで逃げてきた。二人とも体力を著しく失っており、限界が近いようだった。
 二人は取り留めのない思い出話をしている。旧知の仲ではもちろんないが、同郷であったために話は盛り上がった。
 話をしているうちに一方の男(A)はもう一方の男(B)の教養の高さに驚く。Bは大学生だという。戦争がなければ立派な人物になれただろうとAは憐れむ。生まれてきた時代が悪いのだと、Bは笑う。
 そのうちにAは意識がもうろうとしてきて気を失う。

 

 Aはコンビニの従業員用の休憩室で目を覚ます。ここのところ夜勤続きだったせいで、休憩時間中に眠ってしまったらしい。
 妙にリアリティのある戦争の夢を最近よく見る。あんな環境よりは幾分ましかな、とAは自嘲気味に思う。
 Aはもう十年くらい実家にほど近いこのコンビニでアルバイトをしている。
 大学を卒業した年は就職氷河期ど真ん中。やっとの思いで内定をもらった企業は過酷な営業ノルマに堪えられず一年もしないうちに辞めてしまった。
 次の仕事までのつなぎにと始めたアルバイトだったが、なかなか就職先が決まらずそのままだらだらと続けている。
 失業して間もない頃は優しかった両親も、だんだんとあたりが強くなってきた気がする。正直、実家は居心地が悪い。友人とは疎遠であり、ときどき強烈な孤独感に襲われる。
 Aは後悔している。しかし、具体的に何を後悔すればいいのかわからない。あれがダメだった、これが間違いだったと挙げればキリがない。今はただ、時代のせいにしたいと切実に思っている。
 Aは隣国のミサイル発射のニュースを見て、わくわくしている自分に気づく。

 あるとき、Aの勤めるコンビニに新人の女の子(C)が入ってきて、Aは仕事に少し張り合いが出てくる。
 気に入っているとは言えない仕事だが、先輩として頼りにされるとやはり嬉しい。Aは自分がCから好意を向けられていると感じる。
 ある日、本社から社員が視察にくる。社員はかつての同級生だった。Aは彼に能力や年齢を理由にさんざん罵倒され自尊心を奪われる。挙句の果てにその社員とCと交際を始めたという噂がAの耳に入ってくる。
 失意の中、アルバイトの帰り道にAは居眠り運転のトラックに轢かれる。

 

 Aは病院のベッドの上で目を覚ます。周囲には自分と同じ傷つき疲れ果てた兵士がたくさんいる。
 ここは夢の中か? それともこちらが現実なのか?
 しかし、とにかく目が覚めてよかったとAは思う。
 病室にB――夢の中の『社員』と同じ顔をした――が飛び込んできてAを抱きしめる。
「戦争は終わったんだ!」
 Bはそう叫び、Aはなんと返事をしていいものか迷う。安堵と悔しさと、そして落胆がAの胸の中にうずまく。Aは涙目になっているBの横面にそっと触れる。まるで何かを我慢するように。

文字数:1262

内容に関するアピール

 赤木智弘『「丸山眞男」をひっぱたきたい――31歳フリーター。希望は、戦争。』の小説化を目指しました。このエッセイで語られた切実で浅はかで重大な感覚を表現したいと考えています。
 また小松左京『地には平和を』の変奏のつもりでもあります。

 梗概を書いて驚き、そして安堵したことは、物語の結末で主人公が明確に戦争を続けたいと言わなかったことです。
 難しいテーマですが、実作を書ききったとき、この結論は変わらないのかどうか、それが少し楽しみであり、大いに不安です。

 

文字数:228

課題提出者一覧