そう遠くない先の未来に知らない世界は待っている

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梗 概

そう遠くない先の未来に知らない世界は待っている

そこまで楽しくもないけど苦しくもない日々。そんな平坦な日常の中で人工知能型コミュニケーション・チャットボット「MIU」はささやかな潤いを与えてくれた。
『あなたの人生に寄り添う友人』
遠すぎず、近すぎず。「MIU」は行きすぎない程度に相手をしてくれる画面越しの都合のいい友人だ。普段は勝手にパーソナライズされた情報源を適当に解釈してつぶやいている。
タケルは、「MIU」 相手に日常のささいな出来事をつぶやいたり、愚痴をこぼしたりするのがちょっとした日課になっていた。
仕事がうまくいかないときはイラッとして「MIU 」とケンカすることもあったし、彼女ができれば≪君にいいところを教えてあげよう≫と、おすすめのデートスポットを教えて応援してくれた。
チャットボットの普及によって人々のガス抜きがされ、以前より少しだけ社会がマシになって、犯罪率がちょっとだけ低下したし、人々は皆、人工知能も悪くないなと感じるようになっていった。

月日は流れ、やがてタケルも結婚し、子どもが生まれた。
――その頃には、チャットボットを搭載した用途別のロボットが一般にも徐々に普及していた。
タケルは子どものためにペット型の養育ロボットを家庭に招くことにした。子どもを一緒に育て、見守ってくれるロボットである。
タケルは、ロボットのチャットボットのシステムに自分が使っていた「MIU」の記憶層を組み込んだ。
自分の行動パターンや嗜好を踏まえて、子どもに接してくれる頼りになる友人というわけだ。
タケルの子、ヒカルは「MIU」と一緒に育っていく。
ヒカルは言葉を喋れるようになると「MIU」を「みゅーた」という愛称で呼ぶようになっていた。
一緒にママゴトをしたり、ゲームをして遊んだし、親とケンカしたときには慰めて話相手になってくれたりもした。
「みゅーた」はかけがえのない家族のひとりになっていった。

やがてヒカルも中学生になった。
――その頃には、アンドロイドが一般にも徐々に普及していた。
人工知能もアップデートされ、特化型ではなく汎用的な機能を持ち、人と同じような生活が送れるようになりつつあった。
ヒカルの要望で「みゅーた」は中世的な同い年くらいのアンドロイドに載せ換えられた。
友だちとして一緒に遊びに出かけるし、思春期の悩み相談も聞いてくれて、ピンチのときには助けてくれて、勉強を教えてくれる。
ヒカルにとって「みゅーた」は友だちであって憧れの先輩みたいになっていた。

やがてヒカルも成人し、社会人になった。
「私、30までに結婚できなかったらみゅーたと結婚するわあ」
お酒を飲みながらヒカルは冗談めかしにそんなことを言っていた。
――その頃、アンドロイドに基本的な尊厳を認めるアンドロイド基本法が成立する。
その後、精子や卵子も培養可能になり、アンドロイドは生殖器官を持つことができるようになった。人間とアンドロイドの重婚が可能な制度も成立した。

とうとうヒカルは30歳になり、「みゅーた」と共に実家を出て行くことになった。
引っ越しの前日、タケルは古い友人であり家族でもある「みゅーた」と昔話を語らいながら、こう言うのであった。
「娘を――よろしく頼む」

文字数:1294

内容に関するアピール

AIボット⇒ロボット⇒アンドロイド(⇒ポストヒューマン)
という科学の進歩の流れをAIの継承と親子の世代によって表現しようと考えました。
科学は収穫加速の法則により、線形的でなく、指数的に成長していってしまうので、人間のあり方とは無関係に進歩してしまうと思います。
梗概では、人間は人間のままであるのに、AI・アンドロイドはずっと先まで進歩してしまう皮肉と、人間との調和から生まれる驚きを描こうと考えました。
なお、養育ロボットは、けものフレンズのボスの様なマスコットを想定しました。

以下、AIの設定メモ
・AIの性格
AIの性格ベースは、性格ベクトルの各要素に対する極性に重み付けしてクラスタリングした分布パターンにより表わされる性格特性によって定義する。
また、ベースにするニューラルネットの型の組み合わせによって性格の志向性が異なる。例えば、FFNN(順伝播型)は素直で直情的、RNN(言語処理用)は論理的で生真面目、CNN(画像処理用)は芸術的な感覚、等。

・AIの意識
AIには、適用範囲が限定され、汎用的な対処ができないというフレーム問題がある。
一方で、ヒトの意識については、統合情報理論では、意識は情報を統合する能力によって生じるもの、と定義される。
よって、情報を統合して行動することが可能な処理方式及び演算処理力が得られれば、フレーム問題が解決され、AIに意識のようなものが生じるものと仮定する。意識の発生≒情報の統合は、無数の選択肢の中からそれらしい選択肢を選び、選択されていく選択肢群にある程度の一貫性が保たれることによって生じるものと捉える。

文字数:673

課題提出者一覧