梗 概
悪の心象風景
激しく降る雨の中、暴走する一台のセダン。それを数台のパトカーが追いかける。
逃げるセダンは電柱に激突する。歩行者を一人巻き添えにして。
逃走車の男は病院に運ばれ昏睡状態に陥る。巻き込まれた男性も昏睡状態に陥った。
逃走車の男は連続幼児誘拐殺人犯の容疑者。一人の子供がまだ行方不明だった。その子の居場所を知っているのは、この容疑者の男だけだった。田所警部はある大学の教授に依頼する。
田所警部から依頼された佐伯教授は、容疑者の男の脳内データをコンピュータにダウンロードし、心象風景をコン
ピュータ上に作り出した。そして、その心象風景に巻き込まれた男性の脳内データを上書きした。行方不明の
子供の居場所は、昏睡状態の容疑者男の心象風景の中の何処かにある。田所警部は子供の命を、巻き込まれた男性、沢村に託すことにした。佐伯教授の説明では、昏睡状態に陥っている脳であれば、融合させることは可能だということだった。田所警部は、佐伯教授の研究室に並んで横たわる二人の躰を見つめた。
そこは殺風景な部屋だった。
床も壁も天井も灰色のコンクリートのような窓もドアもない立方体の中で、沢村は意識を取り戻した。
仰向けに横たわっている沢村は、天井にぶら下がっている裸電球の光を、混濁した意識の中でぼんやりと見つめていた。どうして、自分はこんなところにいるんだろう?自分はいったい誰なんだ?
意識は戻ってきた沢村だったが記憶はまだ戻ってきていない。ゆっくりと起き上がり床に胡座をかいて座る。
周りを見渡す。この部屋にどうやって入ったのだろか?窓もドアもないじゃないか。
不思議に思う沢村は床を手の平で触る。ほんのり温かい。そして、かすかな震えを感じる。揺れているのか?
と沢村が思った一瞬後に部屋は激しく揺れ始めた。
沢村は床を這いつくばって進み壁に達する。そして、壁を両手で叩いた。
「ここから出してくれー!」声の限りに叫ぶ。
激しい揺れで立ち上がることもできない。
頬に水滴があたる。
指で触ると赤い。
思わず天井を見上げた沢村の顔に大量の赤い水滴が降り注いだ。あ、これは血だ!
揺れは激しくなり血まみれになりながら沢村は壁を叩き続ける。
分厚いコンクリートの壁のようで、叩いても音は全くしなかった。
この部屋から外に出ることはできない、と諦めかけた沢村のすぐ横の壁に突然ドアが現れた。沢村は現れたドアのノブをすがりつくように両手で持ち、血だらけの手で必死になってノブを回した。
ドアが開き沢村は外に転がり出る。
そこは廃墟だった。
「沢村さんの意識が戻ったようです」佐伯教授は田所警部に言う。「これで沢村さんと話ができます」
田所警部は手渡されたマイクで沢村に語りかけこの状況を説明した。
沢村は頭の中に直接聞こえてきた田所警部の声に驚き戸惑いながらも、状況を理解し記憶も取り戻して、
行方不明になっている子供の情報を探しに廃墟の奥へ進む。
連続幼児殺人犯の不気味な心象風景の中で、殺人犯の危険な潜在意識と対決して子供の居場所の情報を得る。
沢村は現実世界に戻ってくる。
文字数:1247
内容に関するアピール
ふと気がつくとある空間に閉じ込められて逃げられない。そこから脱出する男の話をSFで書いてみようと思い、梗概を書き始めました。いろいろ考えているうちに、『殺人犯の深層心理の心象風景を実体化した世界の中に主人公を閉じ込めてみよう』という発想が出てきたことに驚きました。
実作では、人間の深層心理に潜む悪の心をコンピュータで目に見える形にしたらどうなるか、そこに迷い込んだらどんなことが起きるだろうかを、もっと想像してリアルに書いて、こんな風になるんだと驚きたいと思います。
また、沢村と殺人犯についても、もっと詳細に語りたいと思います。
文字数:264