時は納豆糸の軌跡で

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梗 概

時は納豆糸の軌跡で

中年女。それはどんなことでも平気で話せる、真の友情の持ち主たちである。
日本全国魅力度最下位を連続独占し続ける茨城県。その名産である納豆、ヤンキー、そして宇宙開発をからめた闇鍋のような世界に、彼女達の活躍とドタバタを描く。

一日五十円のお小遣いも遣り繰りできない子供時代から、ユキと紅緒は親友だった。二人はJAXAにほど近い田園地帯に育ち、家庭環境は全く異なるものの、宇宙に憧れて育った。
方や貧困家庭で楽しいことは天体観測とバイクだけだったユキ。工業高校を中退してバイク整備工になりそびれ、現代では廃れかかった、カスタム塗装技術者になっている。
方や開業医の娘なのに医学部入試にも宇宙飛行士選抜にも不合格となり続けた紅緒。現在は健康食品会社でタンパク繊維を研究している。
ユキが高校を中退する原因を作ったのは紅緒で、それ以来二人は絶縁していたが、二十年が過ぎ、二人は再会する。引き合わせたのはかつて紅緒を振った男の妻、県会議員の一美であった。一美は地元茨城を世界にアピールするために、納豆繊維による宇宙服づくりをもくろんでいた。
宇宙開発に関われる可能性があるならば、それがどれほど無謀でも、賭ける人間はいる。そこに夢と誇りを込められるなら、誰がためらうだろう。ポリペプチド繊維を合成する紅緒と、粘性物質の扱いに長けたユキは、一美に協力することを決断する。紅緒は失職してしまうが、ユキとの友情はよみがえる。
しかし紅緒が会社に残したデータが必要なのに、研究所長は、協力を拒む。再実験でデータを取るには時間も費用も足りない。更にデモンストレーション用宇宙服に、十億円必要となる。資金集めに奔走する一美。ユキの顧客であるアイドルオートレーサー、愛子も仲間に加わり、研究所長をたらし込もうとするが、失敗。ミリオタだけが引っかかる。
一美の夫は、紅緒に相談せず納豆由来ポリグルタミン酸粉末を不用意に試供する。それが宗教テロに使われる。悪臭物質を混ぜて撒くだけで、吸水し強力に粘着して、いつまでも臭気が残留するのだ。非難を浴びる一美たち。
紅緒がタンパク分解酵素をエアブラシに仕込み、愛子と共に変装して厳重警戒の現場に乗り込む。しかし粘性物質の扱いは、科学者が寄り集まっても、一人の熟練工に叶わない。ユキが駆けつけ、完全に粘着物を取り除くが、不法侵入で捕縛される。
一美が謝罪会見し、前科は付かなかったものの、全員書類送検される。会社は一躍話題となり、ミリオタの資金提供が相次ぐ。宇宙服計画は遠のいたが、ついえずに済む。
ユキは憧れぬいたバイク雑誌に、神塗装師として紹介される。

若い頃の願いはけっこう叶う。けれどそれは大抵の場合、どうでもよくなってからだったり、本人が知らないところでだったりする。それは年を取るほどわかることだ。
それがわかること自体が、誰かさんからのプレゼントなのだ。

文字数:1178

内容に関するアピール

「納豆由来宇宙服」は現実にはありませんが、「クモの糸由来特殊布」は実用化が始まっています。アポロ計画時の宇宙服は、ミシン縫いして樹脂で固めた布を十三層重ねていました。成形後に気密化するタンパク繊維は宇宙服の素材に使えるのではないか、と考えました。納豆糸は納豆菌を宇宙線から保護する働きをしているという説もあり、宇宙空間でも安定しているようです。
納豆、ヤンキー、宇宙開発という無茶な要素で構成してありますが、ストーリーは起承転結の基本に忠実です。クライマックスの驚きは、「権力者がお手上げの問題を、科学者と塗装工が解決する」シーンで表現します。美少女オートレーサーは前職自衛隊員で戦車免許を取っており、レプリカ戦車で登場します。

ディレーニ様ごめんなさい、の題名は、宝石ではなく茨城の名産品が次々と合い言葉になる掛け合いを含むからです。

文字数:366

課題提出者一覧