梗 概
ORIBE In-Out
地球上の現生人類は二種。メスのみの〈リリ人〉とオスのみの〈ロゼ人〉は、あらゆる大陸や島を二分して隣り合いながら、これまで互いに干渉せずやってきた。だが、地球外起源種〈LO〉が空にあいた超空間通路〈LOホール〉から現れるようになり、彼らは手を取り合わざるをえなくなる。
二つの種族は互いの領地の境界上に対LO迎撃基地群〈マージナル〉を築く。両種の兵士たちはここで対面し、〈適合診断〉を受けたのちに二人一組になって〈in-out〉を行う。リリ人のなかに眠るESP能力は、ロゼ人とのin-outによって〈精〉と呼ばれる体液を体内に受け、涙袋に貯蓄することで覚醒する。
リリ人の双子の姉妹ヒバナとオリベは14歳になりLOと戦うためにロゼとin-outした。ヒバナはESPの才覚があったから、LOに連勝をつづけた。しかしオリベは戦果振るわず、そのことは彼女の破壊衝動に繋がった。オリベは駐屯地のロゼの男たちを誘い、適合診断を無視して誰彼構わず寝るようになる。ヒバナはオリベを愛していたから、これを見ていられなくなり、自殺を図る。
ヒバナはin-outしないまま、ESP能力が閉栓した状態でLOの戦場へ赴いた。だがLOはヒバナの姿を捕捉しながら、彼女を食べようとはしなかった。
LOは、ESPしか食べないのだ。
それで知った。本当は順序が逆なのだ。LO撃退のためにESPが現れたのではない。ESPが生まれたから、それを捕食するLOが出現したのだ。
ESPこそがLOをおびき出す撒き餌になっている。このことを知ったヒバナは、偽の情報を流してin-outを推進してきた共同政府に反旗を翻す。反政府テロの中心人物となり、各地のマージナルを破壊するテロ工作を開始する。
その頃、オリベが懐妊する。時期的に考えて、腹の中にいるのは、駐屯地で寝たロゼ人の誰かの子と考えて間違いなかった。共同政府は「リリ人とロゼ人の間に子どもができる」という事実も隠蔽していた。適合診断とは、in-outしても決して妊娠しない組み合わせを見つけるための装置だったのだ。
オリベはカルト宗教の〈聖母〉となる。腹の子どもは共同政府が生みだした欺瞞に満ちたシステムを打破する聖なる象徴として、信者たちに誕生を待望されるようになる。
ヒバナも〈聖母〉の存在を知る。リリ人とロゼ人の共存を語るその人物こそが、ナショナリズムを実践する自分の一番の敵だと知り、聖母暗殺のため施設に潜入する。そしてオリベと再会し、彼女こそが聖母なのだと知る。ヒバナは愛するオリベがロゼ人の子を身ごもっていることに嫉妬の炎を燃やし、腹を裂こうとして信者たちに拘束される。
オリベはヒバナの目の前で出産する。混血の胎児は、生まれた直後から言葉を話し始める。高い知性と強力なESP能力を先天的に備えているのだ。
直後、空が暗くなる。空全体にめいっぱいに広いたLOホールから、これまでと比較にならない大きさを持つLOが、今にも現れようとしている。強力なESPの誕生が、さらに強力なLOの流入を導いたのだった。
仕組まれたシステムを打破するために行動してきたのに、気づけばさらに大きなシステムの渦中にいる。自分たちを手駒のように弄んで、楽しんでいる者がいる……。ヒバナは初めて、神の存在を認識する。
文字数:1358
内容に関するアピール
現生人類が二種類いて、それがどちらも単一生殖で、一方はオスのみ、もう一方はメスのみ。男は男同士で生殖する、女は女同士で生殖するのが普通で、異性間の交渉は生理的嫌悪をもよおすイレギュラーなものとされている、という変な世界です。自分たちを縛りつけるシステムに抗ううちに、どう考えても何者かの作為を感じざるを得なくなる、しかしその何者かの姿は決して見えないし、さらには、その何者かの手のうちから逃げることも決して叶わない。そして絶対に捉えることのできないあまりに大きな謎——「神」の存在を認識する。
文字数:246