梗 概
最初の言葉 ~読者への挑戦~(仮)
「! ……いま、何て?」
「急にこんなこと言う理由わからん? じゃあ時間やるけ、ここ一週間の私の言動を、頭から再生してみ」
視覚が捉えた映像を正確に記録するコンタクトレンズ型デバイスをはずし、目の前の彼女が喋っているシーンのみを検索。連続再生してみる。
【6日前】
――理不尽やったわー誰でもかまんっちゅう話やったのに。会場のロハスおばさんらー、完全にみんな顔見知りで、クソサブカル中年みたいなメガネが仕切って新顔のけものでな。私の見立てではあれ、20代おらんかったんちゃう? そいでネルシャツのボブがな、アラスカ系の。「道夫は私がこんな風にfamousになることを望んでいなかった」とか言うて。悪い人やないと思うんやけど、そこはかとなく面白み漂うちゅうか……
【5日前】
――今回、店出て少ししたら電話かかってきて「すいません、ポイントつけ忘れて」って言うてきて、もうええ言うたのに「行きますから」って言うんやんか。前回「ポイント分、料金から引かれてないんすけど」言うて多少モメたから顧客情報でクレーマーとされとるんか、低姿勢でな。で「実は私、里に帰るんです」って知らんよ。「腰が悪くて……実家は石川なんですけど」、「代わりの人はショート切るの上手いはずなんで」って美容師の身の上話を延々……
【4日前】
――んー、スケジュール管理甘いっちゅう評判立ち始めてる気いするわ。イベント仕事を甘く考えとる本心が透けて見えるんかもな。そら口には出さんよ? 「落ち着いたらやっときます」言うてんのに、一生落ち着かんからはよやれ、みたいな。子供じゃないんやし、一度もトばしてないんやから、好きにやらせいちゅーの。あーもう管理された豚みたいな気分や……
【3日前】
――理路整然としとるけど、学歴の低さ丸見えの講師やったわー今日の研修。「轍」を難しい言葉のような扱いで丁寧に説明してくるし、identifyをアイデンティフィー言うとったし。「ふーん」「へえ」とか様々な相槌を打ちましょう言うから、「昔それやって『馬鹿にしてる?』って言われたんすけど」っちゅうたら固まってしもて全然イレギュラーに対応できひんで……
【2日前】
――他校の生徒が乗り込んできて救急車も来たり、卒業式は特攻服おったりとか懐かしいわ。駅のホームで色とりどりの髪色を見かけると「帰ってきたぁ」ってなるよな。や、同級生の話。そういうんがまだモテるんよあそこは。名前調べると、ポエム日記見つかったり、子供たくさんおったり……
【1日前】
――いっつもどこにおるんやろなあの人ら。他では見かけへんけど。何や雨やからか知らんけども、屋内でみーんな、うすっ茶色い登山服みたいなん着て。ノースフェイスとかの。写真展会場、青山やったから、外出ると一人もおらんで……
「な? ちゃんと予告しとるやろ」
「え、あ、うん。……え?」
「はは。でも、よかったわ。止まったやないか。しゃっくり」
文字数:1200
内容に関するアピール
「〝謎〟を解こうとする物語の作成」ということで、「なぜ」に類する台詞を冒頭に入れ、物語を紡ごうと考えました。「いま、何て?」という台詞は、理由が分からず「なぜ」を問うホワイダニットでありつつ、直前の台詞を書かなければホワットダニットにもなると思い、同時に組み込んだ話を書きたいという意図です。
実作では、仕掛けを大掛かりにし、最初の言葉が判明すると「なぜ」の理由がもう一段オチるような、二段オチの物語を書きたいと考えています。
文字数:212