わが家

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梗 概

わが家

◆発端
 2042年4月。今世紀最大の都市開発が進行中のロサンゼルス。
 ビル・ロビンスンは葬儀に参列していた。彼の勤めるメーカー会社製造の家庭用アンドロイドが、購入者である老婦人オリヴィア・パタースンの首の骨を折り、殺してしまったのだ。リコールや世論反発の嵐が吹き荒れるなか、定年退職間際のビルは、その原因究明に追われている。
 ビルには悔恨があった。実はここ1年ほど、老婦人オリヴィアのクレーム対応に奔走していたのである。オリヴィアは口うるさいクレーマーで、アンドロイドに腕を掴まれアザを付けられたと騒いでいた。新興住宅地に建つオリヴィアの豪邸へ謝罪に訪れたビルは、老婦人から折檻を受けたアンドロイドを引き取り、新しいアンドロイドを提供したのだった。しかし、新たなアンドロイドもまた婦人へ反抗をしたらしく、裁判沙汰になる寸前で、オリヴィアはアンドロイドに殺されてしまったのだ。

◆謎解き
 世論の反発が強まるなかで、なぜかアンドロイドの反抗が頻発するようになる。起こるのはいずれも新興住宅地の邸宅内だ。ビルは調査を進めていくなかで、アンドロイド開発も、現在ロサンゼルスを席巻する都市開発・住宅建築も、同一の人工知能“TAO”によるものだと気付く。
 “TAO”は物故した中国人プログラマーの手によって作られた人工知能で、ここからビルは「四合院」(http://u0u1.net/yZGo)の存在に行きつく。四合院は中国の伝統家屋建築で、四角形の中庭を囲むように、4つの棟が取り囲む形の住宅である。東西南北で棟の役割が異なり、北の棟は主人が暮らす「正房」、東西の棟は脇部屋である「廂房」、南の棟は使用人が暮らす「倒坐房」と呼ばれる。要は易学に基づいた建築様式で、方角によって用途が異なる点に特徴がある。

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 改めて今回の事故が起こった邸宅を見ると、巧妙に隠されてはいるが、全て四合院の見立てで建てられていることが分かる。そして、北側の棟(正房)がアンドロイドの管理場所に、南側の棟(倒坐房)が主人の暮らすメインリビングになるよう恣意的にデザインされている。つまり、本来の四合院とは真逆の構造になるような設計がなされていたということである。
 アンドロイドはこの「見立て」建築と人工知能内に隠された易学的思考回路から、表面上は穏やかながらも、意識下で自分を主人に、購入者を使用人と誤認し、強い反抗をする購入者に対しては「懲罰」を与えていたのだった。

◆大オチ
 これが人工知能のバグか、プログラマーの恣意的設計なのかは不明だが、いずれにせよ今回の事件の原因と確信したビルは会社へ報告をする。
 仕事を終えたビルはそのままグリフィス天文台へ行き、ロサンゼルスの夜景を一望し、すべてを悟る。建築だけではなかったのだ。都市開発が進んだロサンゼルスは、街全体が巨大な四角形を形成していた。南側(倒坐房)にダウンタウンが密集し、そして北側(正房)にはアンドロイドの巨大工場が乱立している。都市自体が四合院の見立てになっているかのように。
 ダウンタウンで反アンドロイド派のデモが過激さを増していた。遠く、工場から行進してくるアンドロイドの無数の影がビルには見えた。

文字数:1314

内容に関するアピール

謎:なぜ、逆らうはずのないアンドロイドが人間に反抗したのか。

 中国伝統家屋「四合院」と、人工知能・アンドロイドを組み合わせた謎解きものです。
 「建築」「易学」「人工知能」「都市開発」などをモチーフにします。なお、梗概に書いてある四合院の説明はかなり簡略化したもので、本来はより緻密な取り決めがあります。このあたりは本編でディテールを書き込み、展開に説得力を持たせます。
 心理描写の補足を。主人公のビルは定年間際で、いわば思秋期を迎えています。都市開発に邁進するロサンゼルスやそこに暮らす人々をかつてのようには愛せなくなっている一方、アンドロイドへは不思議な親近感を抱いています。そのため都市の崩壊が予感される大オチは、ビルにとっては悲劇でもあり、カタルシスでもあります。

文字数:335

課題提出者一覧