今回のテーマは「マンガで伝える」です。
マンガで読者に何かを伝えたいという時には、わかりやすさについて冷静に考えることがとても大切だと思います。
編集者にネームを見せてダメ出しされると、つい反抗的になってしまったり、作品を全否定されたような気になってしまうと思うのですが、実は部分的にわかりにくいだけだったり、作者の意図が伝わらないネームになっているために、編集者の方でも的外れな指摘をしてしまっているということが多い気がします。
そこで、意図を伝える訓練のために、次のような課題にしてみました。
「嫌いな人、嫌いなこと、嫌いな考え方」について描いてください。
誰にでも、気に入らない人、不愉快な出来事やニュース、受け入れがたい考え方などがあると思います。そういうものに遭遇した時、反射的に「嫌だ!」となりつつも、実は頭の中ではその理由が沢山浮かんでいるはずです。それらを冷静に分析した上で、読者にも伝わるようにストーリーやキャラクターに落とし込んでみてください。
ただし、ただの悪口にならないよう、あくまで読者を面白がらせるという視点を失わないように気をつけてください。
嫌な理由を読者に納得させ、面白がらせるためには、作者自身がそのことを俯瞰できている上で、さらに作品自体も満足感を得られる表現になっている必要があります。
仮に今、
・まわりにいる意地悪な人
・人が握ったおにぎり
・なんでかわからないがネズミが嫌い(『動物のお医者さん』より)
などのモチーフがあったとして、どのような表現を用いれば「嫌さ」が魅力的に伝わるだろうかと考えてみてください。
意地悪な人は、どの部分がその人特有の意地悪さなのか。その人のどういうところに端を発しているのか。
人が握ったおにぎりと、自分が作ったおにぎりの一体何がそんなに違うのか。人が握ったおにぎりが嫌だと、そのせいでどんな弊害があるのか。
「なんでかわからないがネズミが嫌い」については「なんでかわからない」だと分析していないじゃないかと思われるかもしれませんが、『動物のお医者さん』を実際に読むと、「辞書のネズミの字を触るのも嫌」「それなのに(ネズミを避けられない)獣医学部に入ってしまった」といった、キャラクターの面白さが伝わるエピソードが沢山つまっていてとても満足感があります。
また、マンガなので、絵の力を使って「(嫌だという)圧倒的な実感」を伝える手もあります。
ぜひ身のまわりにある「嫌い」を「興味深い」「ここまで来たらいっそ好きかも」になるまで掘り下げてみてください。
(鶴谷香央理)