梗 概
リーゼンレーベン市の紋章について
十四世紀初頭、まだ幻獣が生息していたドイツ。
ハルツ山地の麓、ボーデ川のほとりに築かれた自由都市・リーゼンレーベンは大型ドラゴンの営巣地に近い。街はドラゴンにたびたび破壊され、住民は防衛用に蒸気と歯車で駆動するゴーレムを発明。街を囲う外壁にゴーレムたちが立ち、襲来するドラゴンを駆逐した。
ゴーレム使いのギルドに所属する青年ハンスはドラゴンと戦うが重傷を負い、街はずれの森で倒れた。森には光人と呼ばれる異人が住む。かつて天から下ってきたという光人は人の姿をしているが夜になると体が光り、街の人は光人を畏怖すると同時に不気味がった。
光人は倒れていたハンスを助け、懸命に看病し、やがてハンスと光人は恋に落ちた。ハンスは怪我が治って操縦に復帰しても毎晩森へ行き、光人と愛を育む。
ある夜、光人はハンスに「わたしは天の遠くから旅をしてきたが天を翔ける舟が壊れ、この大地に降り立った」と打ち明け、その舟を見せる。ハンスは光人から機械の技術を学び、ゴーレムを強化。ハンスは数々の巨大ドラゴンを倒し、街いちばんの人気者になる。
ギルドの親方たちはハンスの人気と技術に嫉妬。ハンスを呼び「異人の情夫となったお前にギルドも街も守れない!」と叱責し、光人と別れるよう命じる。同僚らも説得するがハンスは拒否し、ギルドから追放された。
街を去るハンスの背中に住民は石を投げ、ふしだら者と罵倒する。暴徒化した住人は光人を街へ連行し、光人を魔女とみなし処刑すべきと主張。だが領主と教会は「魔女は神のような知恵を持てない」と反対する。
翌朝、ハンスを同僚が探しだし、「光人は魔女だった。裁判にかけられ、広場で住人が火あぶりにした」と知らせる。しかしそれは嘘だった。ハンスに光人が魔女で殺されたと言えば、ハンスは改心して街に帰ってきてくれるだろうと親切心で嘘をついたのだ。
愛する光人を街の人たちに殺されたと思いこんだハンスは絶望し、盗んだゴーレムで山を登る。
ボーデ川は上流の渓谷に治水用のダムがあり、ハンスはゴーレムでダムの壁を破壊、ダム湖の水が一気に山を下りた。大量の水がリーゼンレーベンの外壁を越え、建物も人も流し去った。
ハンスは壊滅させた街を歩き、光人の亡骸を見つける。しかしハンスは生き残った同僚から、ハンスに嘘を言ったこと、光人が洪水で死んだことを伝えられる。ハンスは、洪水は自分が引き起こしたと語り、遺体を抱くと泣き崩れた。
その日の夕方、空に巨大な鉄の舟が現れた。舟がハンスと光人を光で包み、二人は空へ昇って消えた。
ゴーレム使いのギルドは洪水で壊滅し、蒸気で動く機械と技術は消失。やがてペストの大流行により幻獣も絶滅した。
だが人々は一連の悲劇を「ハンスと光人の結婚」と呼び、現在まで語り継いだ。現在のリーゼンレーベン市の紋章には鉄のゴーレム、その肩に立つ青年、その横で光を放つ女が描かれている。
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内容に関するアピール
本作はドイツの架空の都市を舞台にしたスチームパンクSFであり、ファーストコンタクトSFでもある。語り手はドイツ各地の伝承をまとめている作家とする。
蒸気で物体を動かすという考えも大型のダムも古代ローマ時代に存在していた。――このような古代文明の高度な技術を知ると驚くと同時に疑問が湧く。なぜ人類はここまで文明を発展させるのに時間がかかったのか?
宗教のせい? マヤ文明の天文学やアラビア科学は宗教的かつ科学的であった。国家のせい? 理性を失った独裁国家も技術と資源があれば核ミサイルを持つことができる。
もしかしたらクラークの言ったように「十分に高度な科学技術は魔法と区別できない」から、人々は歴史の要所要所で、理解のできない高度な技術に混乱し、技術を絶やす悲劇を引き起こしたのかもしれない。本作ではそのような悲劇を架空の街・リーゼンレーベンと蒸気機関の技術が消える様子を描くことで表現する。
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