ハムスターの回し車

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梗 概

ハムスターの回し車

中世。ママチャリに乗って移動するマチャリ族は、流浪の民だった。マチャリ族は回し車の神を崇め、車輪と共に生きた。
マチャリ族の少年Aは、兄であるBの乗るママチャリの荷台に座って旅をしていた。兄はチリンチリン(自転車ベル)の奏で手だった。腕の立つチリンチリンの奏で手は、メロディに意味を持たせ、小動物の行動に働きかけることが出来る。それが出来ないAにとって兄は、憧れの存在だった。
Bは、マチャリ族の稼ぎ頭でもあった。街に野犬が現れれば対価を貰ってチリンチリンを鳴らし、ペダルを漕いで野山へと誘導した。
ある日、スカラベ王国では突如として鼠が大発生する。穀物を食い荒らす鼠に住民の生活は脅かされ。教会や市参事会も対処法を見出せず、町は機能不全に陥る。王国から鼠の殺処分を依頼されたBはしかし、鼠を森へと逃す。マチャリ族にとって鼠は輪廻を回す神聖な生き物とされており、殺すことが出来なかった。
鼠を森へ逃したことが王に伝わり、Bは処刑を言い渡される。それに怒ったマチャリ族は、ママチャリに跨り、Bを救うため王の騎馬兵団に立ち向かう。ママチャリの機動力は圧倒的で、マチャリ族はBを磔台から救いだす。だが、スカラベ王は辺りに油を撒き、スリップを誘発させその機動力を封じた。マチャリ族は多くが殺され、最中でBも命を落とす。
獄中でAは数年を過ごす。生きる意味を失っていたAの元に、ある日鼠が現れる。鼠は兄が使っていたチリンチリンを、牢獄の中に持ち込む。Aは困惑するが、自ら奏でるその音色に涙する。Aの周りには多くの鼠が集まる。
鼠たちは牢獄の地下に、Aを誘う。そこには沢山の本と、剣や槍。Aは夢中で本を読み、武芸を磨いた。

更に数年後。牢獄から脱出したAは、チリンチリンの名手となっていた。本来チリンチリンを解せないはずの民族も、Aの奏でるメロディとカリスマの前に付き従った。Aの組織する解放軍は、王政に苦しむ民から強く支持された。時は満ちた、とAは感じる。しかし、王国の騎馬兵団と対峙するための馬が、今の解放軍には無い。その時、再び鼠が現れる。鼠は野生のママチャリの群れに、Aたちを誘う。そのママチャリのリーダー格は、かつて自らと兄が跨っていたママチャリだった。
解放軍は王都に打って出る。Aのママチャリは跳ぶ様に走った。そしてスカラベ王を追い詰める。残りは王と残り少ない兵士となり、Aはチリンチリンを奏でようとするが—-。

文字数:1001

内容に関するアピール

最終課題の梗概だけは提出するものを決めていたのですが、第7回の実作で『吉澤ひとみさん小説』というジャンルに自分なりに向き合ったところ、完全にコンディションを崩しました。「吉澤さんを救うのは自分でありたい」という様な感覚に飲まれてしまい、何とか体勢を持ち直して今回の梗概を提出しています。他人の物語の源泉に自らを浸そうとする行いは、かくも恐ろしさを孕んでいるのだなという気づきがありました。
さて。今回の梗概ですが、結局”決戦用”に考えていたものではなく、5年以上前に考えたものをベースとした梗概です。適切な長さになるのか。人間ドラマを描けるか。色々心配な点はありますが、「かつて書けなかったけど今なら書ける」お話ではあると思います。書けなかったら困る、というのもあるし。ちゃんと書き終わらせて夏を迎えたいです。

文字数:354

課題提出者一覧