梗 概
幸せな旅路のために
唐沢が目を開けると、人間の死体が一つ、そして周囲にロボットたちがいる光景があった。
ロボットの一体が、その外見に似合わず軽快な調子で状況を説明してくれた。唐沢自身も、たった今起動したばかりのロボットであると。そしてここにいるロボットたちは、保存された人間の記録から再生された個々の人格を持っているのだという。
再生人格ロボットが起動した直後は、通常ならこの場所の一般常識を学んだりといった期間があるのだが、唐沢には今すぐ仕事に参加してもらうために過程を飛ばしたのだという。
唐沢は、目の前の人間の死体に対するために、医学知識とそれに伴う資格を持つ再生人格として急ぎ作られたのだそうだ。
この場所は閉鎖された街で人間は一人もおらず、ロボットのみ。医学知識はこれまで不要だったため、その知識を持つ再生人格も作られなかった。しかし、存在しないはずの人間の、その死体が発見された。事態が起こったからには、法規則に従って適切に対処しなければならない。だから医者を作った。
そういうことらしい。
唐沢は様々な疑問を抱くが、もう一体のロボットが来て、まず仕事をしろと言われる。仕事とは、まずは死亡判断と検視立ち合いであった。
唐沢は仕方なく、死体に近づく。死体―いや遺体と呼ぶべきか―は屋内の床の上にあった。広い、ビルのワンフロアみたいな殺風景な場所。服を着ておらず、全身が確認できる。人間以外の動物ということもないと思われる。外傷は確認できないが、干からびていて死亡しているのは明らかだった。それで、死亡を確認したと伝えた。
「六月十二日、午後四時八分。唐沢医師により死亡確認。続いて検視資格相当官、捜査一課の郷が検視にかかる。立ち合いは唐沢医師」
ロボットはそう口に出して屈みこんだ。
警察の真似事をしている。しかも自分もそのロボットたちの一員だ。名前と医者の知識はあるが自分が誰かという記憶がない。悪い冗談の様な状況に唐沢は呆然とする。
最初の方のロボットが来て、視覚フィルター機能というのを設定してくれた。途端に無個性だったロボットたちが人間の姿に見えるようになった。
再生人格たちは基本的にこの視界で生活しているという。
そして簡単に説明してくれた。
ここは火星木星間小惑星帯にある、資源採掘用拠点である。
人類の拠点で、人間滞在用の施設もあるが、人間がいたことはない。
基本的には採掘用の自動ロボットと資源投射用の設備、保守用自動ロボットが働く拠点だが、それらの管理や滞在者受け入れ用の街の維持のために再生人格ロボットがいるのだという。
そして人間が来ることなく、滞在者受け入れ用の街を維持して三百年余りが経っている。
今回の死体発見も含めて地球の所属元に連絡しているが、返答はない。それ以外の有意の通信もない。
なぜ人間の死体があったのか。この街はなぜ長期間放置されているのか。それを探っていく物語。
文字数:1200
内容に関するアピール
最終実作の制限枚数に合わせ、読者牽引力があり、かつ物語と登場人物が表現されている話にしようと考えております。
文字数:54