梗 概
シレーヌの憂鬱
地球各地に残る人魚の伝承。それはかつて、地球に遊びに来ていたエウロパ人が、宇宙航空技術を持つ以前の地球人とコンタクトを試みた結果であった。長寿であり、高度な知能を持つエウロパ人はシレーヌと恐れられつつ、地球人とのコミュニケーションを試みていた。
主人公はエウロパで約200年生きている人魚。平均寿命約800年の人魚にとって200歳は人間に相当するとまだまだ若手。氷殻湖内で見つけた地球人が自分を追いかけてきたので捕まえて空槽で飼い始めたのだと自慢する友人の話を聞き、地球人達が乗ってきたと思しき乗り物を探し当てる。中に居た地球人2名のうち1名と最新型の音声変換器でコンタクトを試みたものの、相手は乗り物の中で昏倒してしまう。
2人目にどうコンタクトしようか考え倦ねていた折、乗り物のスピーカーから何かの音が聞こえてきた。ガラス越しに様子を窺うと、地球人はエウロパの昔話に出てくるリラと似た楽器を弾きながら歌を歌っている。歌と演奏に聴き入る主人公は一旦音声変換器の使用を見送り、自ら声を発しないコミュニケーションによる関係構築を試みる。しかし、気持ちが通じたと思ったのも束の間、地球人は主人公に別れを告げてエウロパから立ち去ってしまう。
音声変換器の改良を待って主人公が友人の拾ってきた地球人とのコンタクトを試みると、その地球人は、地球人は現代においてもとんでもなく野蛮で、今後は来る度に皆殺しにした方がいい、自分は地球人の滅亡を見届けるまでエウロパ人に力を貸すと主張し、エウロパ人コミュニティにおいて現状維持を望む保守派の勢力と結託する。
主人公は立ち去ってしまった地球人とのやり取りを思い出し、エウロパ人と同様、地球人の持つ性質も多様ではないかと考え、かつて地球で鶴と呼ばれる生き物に化身してエウロパ人社会へ溶け込んだ”タロウ”の子孫との接触を試みる。
エウロパ人の保守派に隠れ、18年ぶりに火星からの調査船とのコンタクトに成功した主人公。
乗っていたのはかつてやり取り出来た地球人と主人公自身にそこはかとなく似た、少し幼さの残る少年と年老いた毛むくじゃらの生き物。少年はリラではなく、少年よりもずっと大きくて黒々と光る大きな箱に向かって両手を動かしていた。主人公はその少年の奏でる複雑な響きに興味を持ち、やはり、現代の地球人とのやりとりによってエウロパ人が得られるものも多少はあるのではないかと考える。
エウロパ人達はその立場が大きく二分されたが、音楽でより多くのエウロパ人を感動させた方の話をよく聞くことにしよう、という事になった。保守派の工作により、窮地に立たされる主人公。想定より遅い少年の帰還に業を煮やした少年の父が再びエウロパの海を訪れ、思っていたよりくたびれていた父親に驚きつつヒントを得た少年は主人公と共闘し音楽バトルに勝利する。以降、エウロパ人は少しずつ地球人と交流を深めていく。
文字数:1200
内容に関するアピール
前回、地球人にとっての辺境であるエウロパの人魚とファーストコンタクトする、という話を書きました。執筆のためNASAエウロパクリッパーのサイトや関連資料を見るのが楽しかったのでもう少し筆者がエウロパの海に思いを馳せたかったのと、
もしエウロパに人魚みたいな先住生物が本当に住んでいて、火星に移住済の地球(出身)人とコミュニケーションをとることになったら、そこにはどんな社会があって、どういう暮らしをしているのか。エウロパ人の視点を中心に、地球人2世代が絡む音楽バトルも交えた話をインファンテリズムに寄り添って書きたいと思いました。
第8課題と表裏をなしつつ最終実作単体で読み切れる内容にするため、一部の場面について第8課題の作中シーンが視点を変え断片的に現れることも想定してます。
これまで運動好き!な作品を提出しましたが、3歳から細々と続けてるピアノに顔向けできるような作品にしたいと思います。
文字数:394