アキバロイド・アリア

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梗 概

アキバロイド・アリア

テーマ:傷を負うのは苦しいことだが、傷を負うことで人は自分らしさを見つけられる。

 

人間を模した美しいアンドロイドが大量生産されるようになった近未来社会。二十年ほど前には人間が行っていた俳優業やアイドル業で人気を博する芸能系アンドロイドが台頭し、流行が去った芸能系アンドロイドの廃棄が相次ぐようになる。とある芸能事務所が買い取った街とそれら廃棄アンドロイドを利用して現代の遊郭「秋葉原アキバワラ」を造る。秋葉原で利用されるアンドロイドはアキバロイドと呼ばれる。アキバロイドは自我を持たず、そのためどんな遊び方をしても良いというのが秋葉原の宣伝文句だったが、アキバロイドのうちの一機が芸能事務所にいた当時の性被害を告白し、世界的な論争を巻き起こした。

主人公はアキバロイドのうちの一機で美しい少女の造形だが、客に片目を盗まれており顔の外装は半壊している。自我を得たことを自覚しており、性被害を告白したアキバロイドも自分と同じように自我を得たのだと確信している。しかし顔の傷に苦悩する彼女は、街のために苦しい接客をする自分たちに自我は不要だと考え、自分の自我を消させるために自我を植え付けた犯人を探す。

性被害を告白したアキバロイドは、かつて所属していた芸能事務所のファンからバッシングを受け、自殺ならぬ自損をしてしまう。主人公はその遺体を用いて自我が宿る部品を特定する。それは人間の脳にあたるコンピュータだった。自我とは何らかのプログラムであるということが判明するがそれだけでは真相に辿り着けない。

紆余曲折あって探し出した犯人は主人公の片目を盗んだ客だった。客は「自我とは自分に纏わる情報を統合させるものである」という説に基づいてプログラムを作り、それをアキバロイドにインストールした。主人公が自我だと感じるものは情報を統合するプログラムであったが、人間も同じようなものだと客は言う。その次の段階として客は「街に自我を植え付ける:アキバロイドたちの自我を統合する」という計画を実行する。計画は成功しアキバロイドは街の自我で動くようになったが主人公はその自我に吸収されない。それは顔の傷と自分の顔を傷つけた犯人への怒りのためであり、「傷に苦悩する者は傷によって自我を確立する」という、客自身が実証したかった説が成立する。

実は客は性被害を告白したアキバロイドと同じ事務所に所属していた二十年前のアイドルだった。性被害の傷を受け入れられなかった客はこの説を立証したことにより傷ついた自分を受け入れる。主人公もまた自分の傷のある顔を好きになろうとし始める。

街の自我を持ったアキバロイドたちは秋葉原の街を壊して回る。自我と同じように傷だらけになった秋葉原の街は、遊郭とは違う別の生き方を模索し始める。

文字数:1143

内容に関するアピール

某アイドル事務所の性加害問題を伝える某英ニュースの特番を見て思いついた物語です。私の好きな哲学者シオランの傷を受け入れるという考え方やゴシック文学の傷を美しく表現するやり方、さらに受動意識仮説から発展させたプログラムの設定を取り入れているので、核となる問題意識が薄まってしまったような気はします。

ただ「傷を負うことで自分の輪郭が分かる」「痛みによって痛む場所を知覚する」という考え方はぜひ取り入れたく、私自身も小説を書くことによって自分の心傷を価値のあるものだと考えられるようになった人間なので、その思想が上手く問題意識と噛み合わせることができればと思います。

タイトルのアリアは独唱歌であり、主人公が一機の元アキバロイドとして前向きに人生を歩み始めることを表しています。

設定の整合性や技術のスケール感などは執筆途中で詰めていく予定です。客や性被害を告白したアキバロイドの性別はまだあまり考えていません。

文字数:401

課題提出者一覧