あいくるしいひと

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梗 概

あいくるしいひと

イ・ヌガメは自身の経営するペットショップ「ンイイスィ」の経営拡大を考えていた。五人の子供がいるイ・ヌガメにはあと12ヶ月で三つ子が生まれる予定がある。食料の不足に起因する人口抑制策としての住民税高騰はしばらく続きそうだったので、中絶されないためにもあと4ヶ月で現在の売り上げを倍にする必要があった。そんなおり、イ・ヌガメの元にピッチの招待状が届く。投資家や金融機関が有望なビジネスに投資するためのコンテストだ。渡りに船とイ・ヌガメはピッチに参加するが、その結果は散々で、投資効率の悪さを散々にこき下ろされた。

ピッチ終了後のパーティーで落胆したままぽつねんと食事を取っていたイ・ヌガメは出資を勝ち取った参加者の1人から声をかけられる。惑星間入植用ロケットユニットの量産化でその日最大の出資を得たホル・ヒラであった。父姓を持たない彼はその恵まれない出自にもめげずビジネスの成功者ならんとしている傑物だった。ホル・ヒラは惑星間移動の際に輸出入を行いたいと考えていたが、交易のパートナーを探していた。イ・ヌガメとホル・ヒラの協業は上手くいった。入植地の人口増加に伴い、ペットの需要は高まっている。特に人気なのが体毛の生えている生き物だった。

そんなある日、イ・ヌガメのペットショップで脱走騒ぎが起きる。ペットの一部がケージから逃げ出したのだ。ホル・ヒラとの協業契約では、入植地の生態系を乱すような違反行為は罰金対象である。イ・ヌガメは慌ててペットを探す。どうやら、一部のペットに賢い個体が紛れ込んでいたらしい。イ・ヌガメはなんとかペットを見つけ出したが、ペットは驚くべきことに入植地の共通語チャモを話した。たどたどしいチャモでペットは自らの賢さを訴えた。仲間のいる場所に戻りたいらしかった。確かに、そのペットのホモ・サピエンスは賢かったが、周囲四光年には一体も存在しない絶滅種であること、そして、自分が遺伝情報から生成された模倣体だということがわかっていないようだった。イ・ヌガメはこの可哀想なペットをケージに戻したのち、彼がその短い生涯を愛情たっぷりに生きられるよう、値札を取り下げ、自ら育てることに決めたのだった。

文字数:904

内容に関するアピール

文学に必要なものは、知性・悲哀・ユーモアだと私は勝手に考えています。今回はエンターテイメントということなので、ほっこりする人情話にちょっと毒を混ぜつつ落としていきます。といっても、オチを梗概に書いてしまっているので、果たしてどこまで期待を裏切れるのかはわかりませんが。

問題点は「語り手は何語を喋っているのか?」という点ですが、いままでSFを何作か読んだ限りだとあまりそこは問題視されないのかと。固有名詞や社会制度の描写などで工夫していきます。

ちなみにイ・ヌガメの種族は平均体長3m、妊娠期間は18ヶ月を想定しており、毛むくじゃらです。毛むくじゃらの生物の文明は進化しないように思えますが、さて、どうしましょう。人間は異星人の侵略で滅びたのではなく、地球が住めなくなったので火星への移住をトライして失敗したという想定です。舞台設定は西暦3000年頃を予定しています。

文字数:382

課題提出者一覧