梗 概
エンケラドゥスの烏賊
土星の衛星エンケラドゥスの調査に向かった調査隊が事故に遭い、負傷した女性隊員が意識不明の状態に陥ってしまう。
調査隊からの救助要請を受け、地球から医師の花沢が派遣させることになった。
花沢は、なぜ自分が選ばれたのかがわからなかった。彼は産婦人科医だったのだ。
極秘だというその理由を聞かされた花沢は驚く。感染者の女性は妊娠していたのだ。だが胎児の父親は調査隊のメンバーではなかった。というより誰でもなかった。その胎児はエンケラドゥスの生命体が女性隊員の細胞に寄生してその子宮内で育った地球人とエンケラドゥスの生命体とのハイブリッド生物であったのだ。
彼女の体内から無理やり生物を取り除こうとした医師は、謎の攻撃を受けて意識不明に陥っていた。
そこで花沢は、女性を無事に「出産」させることにする。
生まれて来たのは先端に人間の手のようなものがついた長い2本の触手を持つ烏賊のような怪物。
怪物を攻撃しようとした者が次々に襲われる中、なぜか怪物になつかれた花沢は、その烏賊の怪物に「ポチ」という名前をつけて飼育する。
「ポチ」は、花沢の頭に触手を張り付かせることで、その思考を読み、自分の体表の斑点を自在に使って文字をつづって意思の疎通を行うようになる。そして花沢が「ポチ」の攻撃で意識不明となった女性隊員や医師を心配しているのを知って、彼らの意識を回復させてやる。
間も無く「ポチ」は分裂、増殖し、調査隊の仕事を手伝うようになる。彼らの知能は非常に高く、徐々に主導権は「ポチ」たちに移っていく。この事態に危機感を抱いた船長は調査隊の基地が怪物によって占領されたと地球に報告。
エンケラドゥスにおける怪物の繁殖を危険と判断した地球は、調査隊の隊員もろとも怪物を滅ぼすためにミサイルを搭載した宇宙船をエンケラドゥスに向かわせる。
その直後「ポチ」たちは、分裂した身体を合体させて巨大な怪物に変化。
「ポチ」の姿に驚いた隊員たちは、基地を捨ててエンケラドゥスを離脱、その直後に地球からのミサイルが着弾する。
それを知った花沢は「ポチ」が自分たちを救おうとしたのだと信じる。
その後、花沢は、地球に戻った隊員たちが次々と結婚、出産したことを知る。彼自身も女性隊員と結婚し、子供をもうけていたのだ。
抱き上げたわが子の指が花沢の頭に触れる。その時、花沢が覚えた感覚は、最初に「ポチ」の触手に思考を読まれた時と同じだった。
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内容に関するアピール
火山があって水もありそうな土星の衛星エンケラドゥス。
そこに原始的な生命体が存在していてもおかしくない気がします。
未分化の生命体のスープのような状態のエンケラドゥスに、黒船のようにやって来た地球人の宇宙船。
宇宙船の乗員の遺伝情報は、エンケラドゥスの生命体に爆発的な進化を促し、やがてその進化は地球人を追い抜いてしまい……。
遺伝子に潜んでのインベーダー地球侵略の「前史」を物語にしてみました。
文字数:194