献血

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梗 概

献血

イスを二つ用意。真上から見て「ハの字」型に配置。
観客席から見て左側にインタビュアー、右側にKENさん座る。(人ではなくても可)
インタビュアーがマイクを持ち、KENさんが喋るときは、KENさんの口元にマイクを持っていく。


――(笑顔で)こんにちは(軽く頭を下げる)。「いきいき私のいき方流儀」、本日は、献血し続けて五十年、巷では献血KINGの異名を持つKENさんをお招きいたしました。KENさん、よろしくお願いします。

お願いします。(言いつつ頭を下げる)

――早速ですが、KENさん。「これはいい献血だった」という、あなたにとってのベスト献血をお聞かせください。

はい。ええと、まあ、今から話すことは全部ウソなんですけれども、献血中に、私に注射針を刺すナース服の方が、突然、産気づきまして。「ヒーッ、ヒーッ、フーーー」とラマーズ法を駆使しながら、ずぶずぶと私の腕に深く、深く、針を差し込んでいったんです。それはもう、貫通しますよね。貫通。まあ、言っても、私も男ですからね。口では格好いいこと言いながら、エロいことを考えて、どうにかなった感じなんですけれども。(ジェスチャーを交えながら話す)

――はい。

それ以来、ナース服は苦手になりましたね。

――なるほど(頷く)。では何なら得意なのでしょうか?

それは、断然、カントリーマアムですね。

――カントリーマアム。

はい、そうです。ミルキーより、ネクターより、やっぱり不二家と言えばカントリーマアムでしょう。いや、略してカンマですね。カンマ。暖めても美味しいですし。

――そうですね。暖めると、ふにゃふにゃしますよね。

確かに(力強く)。ふにゃふにゃと言えば……夏ですね。

――夏?

はい。これは夏に、海に行ったときの話なんですけれども。

――はい。

浜辺にこういう……星型の硬いものが落ちてましてね。

――はい。

それが、水につけたら、なんと、ふにゃふにゃしたんですよ。

――はあー、なるほど。

まあ、偶然、浜辺に来ていたスタッフが全部美味しく食べたんですけどね。

――それはおかしいなあ。

え?

――にわかには信じがたいでしょうが、私の聞いた話だと、現地に来ていたスタッフは、皆、踊りが得意だったと。

そうですか。では、私の勘違いですね。

――そのようですね。次の質問にいきます。ええと、Aさんは、日常的に「献血」を行っていると思うのですが、血が足りなくなるときはないんですか?(マイクをAさんの鼻におしつけながら)

ありますよー。それは人間だもの。あります。(嬉しそう)

――そうですよね。

そんなときはもちろん輸血しますね。(相手の顔を見ながら)輸血です。輸血。輸血してからなら、また献血できますよね。

――ああ……案外、普通の答えですね。

(沈黙)

――あの、ええと、お話の続きは?

は?(不機嫌そう)

――え、ええと……

あなたねえ、もっとTPOをわきまえなさいよ!

――失礼しました(頭を下げる)。

TPOはタイム、ポイント、オキャ……オキャ、オカ、オケ? オケイジョンですよ!
人様に「温厚」と言われることの多い私だってねえ、怒ることはあるんですよ?

――大変申し訳ありませんでした。

(眉間に皺をよせつつ)すいません……ちょっと、悲しい話をしていいですか?

――え? ああはい、どうぞ。

小学生のときにトモヤくんという友人がいたんですけれども

――はい

彼が、こう、耳に粘土を詰めていまして。

――はい

それが取れなくなって、最後は手術になったんですけれども。そのことがあったから、今の私があるっていうか……

――はい?(怪訝そう)

実は……、私も今日、トモやんのように、詰めているんですよ、粘土。

――(驚いた顔)それは……奇遇ですねー。実は私も詰めているんですよ、粘土。

粘土。

――粘土。

粘土。

――粘土。

粘土。

――粘土。

粘土。(二人で)

(間をおく)

――Aさんが、献血の道を志されたきっかけは?

これはちょっと汚い話になってしまいますが……

――じゃあいいです。

あ、はい。

――……あ、いや、やっぱ少しだけ

ウンコとおしっこを混ぜて……

――(喋りを遮り)もういいです。

は、はい。

――あなた、恥ずかしいと思いませんか?

思いませんね。

――そうですか。私たち、わかりあえそうにないですね。

残念です。

――気を取り直して、次の質問に臨みます。献血をしてきた中で起きたアクシデントは?

これはちょっと汚い話になってしまいますが……

――じゃあいいです。

あ、はい。

――……あ、いや、やっぱちょっとだけ

ウンコとおしっこを混ぜて……

――(喋りを遮り)もういいです。

は、はい。

――あなた、自分が恥ずかしくないんですか?

別に恥ずかしくないですね。むしろ誇らしいですね。

――そうですか。私たち、わかりあえそうにないですね。

残念です。

――気を取り直して、次の質問に臨みます。Aさんは幼少時代、どのような子どもだったのでしょうか?

これはちょっと汚い話になってしまいますが……

――じゃあいいです。

あ、はい。

――……あ、いや、やっぱ少しだけ

ウンコとおしっこを混ぜて……

――(喋りを遮り)もういいです。

は、はい。

――あなた、親御さんに申し訳ないと思わないんですか?

思いませんね。

――そうですか。私たち、わかりあえそうにないですね。

残念です。

(間)

――最後の質問です。Aさんにとって、献血とは?

献血ですかあ…………。私にとって、献血ねえ……………。うーん……。
(かなり時間をおく)
……愛………夢………希望…………
(立ち上がって歌いだす)「無限の希望を~、愛を~、夢を~奪いに行こう~」

――KENさんって、献血したことあるんですか?

いや、ないですけど。

――そうですか。では、逆に、KENさんから私に質問はありますか?

前から疑問に思っていたんですけれども……。

――何でしょう?

タモリさんってエロいと思いません?

――知りません。

ありがとうございます。(深々と頭を下げる。下げたまま上げない)

――(観客席に向き直り)本日の「いきいき私のいき方流儀」、いかがだったでしょうか? なお、次回は、献血をし続けて50年、巷では献血QUEENの異名を持つ、KENさんにお出でいただく予定です。それでは皆様、ごきげんよう(笑顔で手を振る)。

(終)

文字数:2524

内容に関するアピール

前記の文章は「SF創作講座」という講座に参加して提出する10回目の提出物になります。私は本講座において「読んだことがないものを書いてみたい」という思いから、意図が成功しているかはさておき、奇をてらった(ように見える)文章を提出し続けてきました。本講座の最終課題(120枚分)としては今のところ、これまでの回で提出した梗概や、今回の文章のようなものを集めた、短編集(のようなもの)を提出する予定です。

ところで寝ているときに何度も同じ夢を見ることはないでしょうか。私は十年以上前、大学生のときから「自分がステージで漫才かコントをしていて、ネタを飛ばしてしまい、あせる」夢を定期的に見ます。いつの間にか、実際にあったことの記憶と勘違いしてしまうことも起きるようになり、お笑いのネタを見ているときに「あのときは、あせったなあ」と捏造記憶が再生され、直後に「いや、あれは夢だ」となったことも幾度かあります。その夢の中で見たコントを思い返しながら、前記の文章を書きました。なお、私は漫才やコントも、演劇も、自分でしたことはありません。

できるだけ様々な形式で様々な内容の文章で短編集を編みたいと思います。と書いていますが、実作としてはこれまでと全く関係ない1つの中編小説を提出するかもしれません。

文字数:541

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