梗 概
惑星ガーデニング
それは破壊か、創造か
人類はあらゆる社会問題を解決し、長寿命化による、膨大な余暇を持て余すようになった。人類総ニート時代の到来は、資本主義から評価主義への移行をもたらした。評価主義社会では、スターの数が競われる。そしてそのスターを配分するために、様々なゲームが催されていた。中でも最近ブームとなっているのが、惑星を一つの庭と見立て、最も魅力的な生態系を設計したチームが優勝するという《プラネット・ガーデン・デザイン・コンテスト》(PGDC)である。宇宙空間に新しい“太陽系”を創造し、生物多様性・地形特異性・持続可能性という尺度からより良い惑星をデザインするというコンペティションだ。
ヴィクトは一人の娘を育てる父親。訳あって世界有数のガーデニストチームをクビになった八十代(我々の世界では二十代程度)の男だ。娘からスターの少なさを馬鹿にされた彼は、父親の「やればできるところ」を見せたいと一念発起し、PGDCへの参加を決める。さっそく仲間を募集するが、締め切り間近だったため、ろくなメンバーが集まらない。結局、動物園飼育員・広告デザイナー・元軍人の三人と、《ローン・ウルヴス》を結成する。
宇宙船に搭乗し、競技惑星に到着。探査した結果、地球よりも火星に近いことが判明。悪条件に愚痴をこぼすも、二週間かけてなんとか生命の生きられる大気組成に調節。それと並行して無人工作機に指示を出し、山を作り、川を流し、海を創造していった。下地を整えると、揺籃器から動植物を生み出せる《生命の種》を使い、食物網のバランスを考えながら、様々な生命を各地にバラまいていく。そしてそれらに《進化促進剤》を散布することで、通常ではありえない速度でその形態を変化させていった。ウマのように細く、足の速いゾウ、陸上を這うサメ、空中を飛行する植物などなど。
競技開始から二ヶ月後の朝。地響きと轟音で目を覚ました主人公たちは、キャンプの外に、怪獣のような巨大生物を発見した。備蓄庫に置いてあった進化促進剤を残らず平らげたであろうそれは、捕食・光合成・化学合成による発電という特異なエネルギーシステムを持ち、分離・合体を繰り返すことで、個体でありながら群の特性を持ち、捕食した生命のDNAを取り込み、目に見える速度で進化していくという究極生態系となっていた。それは《アルティマ》と名付けられた。
アルティマは惑星中のありとあらゆる生命を呑みこみ、地を裂き、海を拓いていった。ヴィクトたちは、星が喰まれていく光景を呆然と眺めながら、競技続行を断念、帰り支度を始めた。宇宙船から眺めたそれは、数多の創造神話に現れる神のようにも、無邪気に庭いじりをしている子供のようにも見えた。
地球へ帰ると、思いもよらぬ称賛が待ちうけていた。審査員から「制御不能であることこそ、自然本来の姿である」と評され、優勝トロフィーは彼らに授けられた。
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内容に関するアピール
遊びという行為は人間の特権ではなく、多くの動物の行動にも見られます。遊びは文化というよりも、情動レベルに刻まれた本能的衝動なのかもしれません。そこで私は、「もしも自然のような巨大なシステムが、遊びの楽しさに目覚めたらどうなってしまうのか?」と考え、梗概に起こしました。――というのは嘘っぱちで、本当は「自分がゴジラの企画を依頼されたら」という思考実験が始まりでした。自分で言うもなんですが、シン・ゴジラの影響がダダ漏れですね(笑)。梗概には書いていませんが、この世界ではワープ航法が発明され、宇宙の広大な領域を調査・開拓しています。にもかかわらず、人間に並ぶ知的生命体は未だ発見されていないという都合のいい設定です。また、進化促進剤には、高度な知能を持てなくなるような成分が含まれており、人間以外の動物のように、コミュニケーションは不可能となっています。
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