梗 概
流星ドラグナー
その男は、火星最速の竜騎手
名竜スレイプニルを駆り、オリュンポス賞を五竜身差でブッチぎったハヤテ騎手は、早くも次のレース〈火星ダービー〉を見据えていた。彼は火星史上初の五大レース制覇を信じて疑わなかったが、ダービー終盤にて、まさかの落竜事故を起こしてしまう。一命をとりとめるも、全治十ヶ月の重傷を負い、名竜は引退を余儀なくされた。
リハビリを続けながら競竜中継を観戦する日々。主人公は危険を顧みない騎乗で名竜を怪我させたとして、業界関係者から非難を受け、愛する妻からは競技を辞めるように説得を受ける。それでも彼は淡々と、復帰に向けた準備を進めた。落竜事故の原因は、ある若手騎手との接触にあった。カメラからは見え辛い位置であり、協会から若手騎手へは警告で済まされたが、主人公の心にはそのシーンが引っ掛かっていた。
怪我から一年。復帰後初めての重賞レース。奇しくもそれは、火星ダービーとなった。件の若手騎手も手綱を握り、メディアからは因縁の対決と囃される。そして主人公が乗る竜はスレイプニルの子、血統は良くも結果を出せずに燻っていたグラニであった。
ファンファーレが鳴る。ゲートが開き、十四頭の竜が放たれる。先行集団に若手騎手、最後尾に主人公。第一スロープ、第二スロープまでは翼を貯め、第四スロープに入ったところで鞭を振るう。主人公は竜に流星形態をとらせ、最終カスケードにて100メートルの垂直落下、一気に十頭の竜をブッチぎる。落竜ギリギリまで手綱を堪え、地表スレスレで両翼を広げさせ、最終ストレート。一頭、二頭を難なく抜き去り、先頭を翔ぶ竜の尾が目前まで迫る。ゴール前、二頭の竜が並ぶ。歓声が沸く。竜券が舞う。ほぼ同時にゴールイン。写真判定に持ち込まれたが、主人公には手応えがあった。空中スクリーンに確定が表示される。主人公は場内をウィニングフライト。四階席から手を振る妻と娘を見つけ、ガッツポーズでそれに応えた。
文字数:802
内容に関するアピール
もし火星でスポーツが行われたとしたら、低い重力を生かした競技が生まれるかもしれません。「それでは『競馬』はどうなるだろうか?」とアイディアが浮かび、上下の運動を必要とする『競竜』を考えました。最大の見せ場は「高所からの急速落下、そして全速力での最終ストレート」です。主人公は空気抵抗を最小化する捨て身の技を用いるため、〈流星〉の異名を持ちます。
この世界(22世紀の火星)では、《創成生物学》の発展により、想像上の動物がゲノム編集技術によって生み出されています。生命倫理的観点から地球での研究は中止、より自由な気風の火星へと研究者が移り住んだことで完成しました。
また、《パラテラフォーミング》によって、地球の地上と同気圧を再現します。火星には《ワールドハウス》という、地上1000mの支柱を建てた、巨大なビニールハウスが建設されており、火星の温暖化・大気の確保・宇宙放射線の減衰などが解決されたという設定です。参考文献『人類が火星に移住する日』技術評論社
文字数:426