梗 概
マオがリーナに出会ったのは、転校先の九州の、山の小学校でだった。山は修験道の霊山として名高くて、レーザーを使った調査で山伏の住居跡が大量にみつかったことがYahoo! ニュースで流れ、それを何だかたくさんのひとが、SNSで拡散していたくらい。学校は小さくて、同級生も女の子ばかり五人しかいないから、マオとリーナはすぐに仲良くなったのだ。リーナの家は、代々山の神宮の神主をしている権力者で、その名字も日本にひとつしかないらしい。リーナはかわいく活発で、時々すごく性格がわるい。そして山でただひとり、ディズニーシーに行ったことがある子どもだった。
山には昔から天狗伝説があり、この山で天狗にさらわれ姿を消した子どもの話は、能の演目にもなっている。ある夏の夜、マオは参道の脇の山道で、弟と一緒に天狗の大集団を見た。それは百年に一度という流星群を見に、神宮の境内へ行った帰りだった。数日後、リーナと折りあいの悪かった同級生、カワベが死ぬ。マオと、やはり同級生のミナトのふたりは大きなショックを受けるが、山の人々は動じていない。リーナも「これはブンリとバランスの問題だから」という。「ブンリ……?」まもなくマオは気がつく。人口は少ないのに、この山にはいなくなるひとが多すぎる。下級生のお母さんが出奔し、体育の先生が火事で死ぬ。進学を機に山を離れてからも、しつこい追手のように訃報が来る。二十五の年、いちばん仲のよかったミナトが死ぬ。
悲しみの時間のあとに、恐怖と疑問がやって来る。どうしてあの山ではあんなにひとが消えるのか? 山がもたらす精神的な作用や連鎖、何らかの原因があるのではないかと考え、マオはそれを探ろうと決意する。しばらく会っていないリーナの実家に連絡するが、家族から「リーナは現在ふたりに分離しており、いまはそのうちのひとりにしかアクセスができない」という謎の説明を受ける。アクセスできないほうのリーナは、九州の地方都市でうどん屋のパートをしながら双子の子どもを育てており、アクセスできるほうは、中央アジアの新国、カザン共和国にオープンした北朝鮮レストランで、律儀な通訳係として働いているらしい。マオはカザンのリーナに会いに行く。
カザンには初めて行く。言語はもちろん、気候も日本とはまるでちがう。それなのに、首都を歩いていると知っている場所のような気がする。地図と突き合わせて街を歩きまわっているうちに、マオはこの新国の首都が、あの山の集落をなぞらえて造られていることに気がついた。マオは再会したリーナに、知っていることを話してほしいとつめよる。
リーナは、これらは仮定で、まだ実験の途中なのだと断った上で、山の「磁場」を分離してカザン共和国に移すという、神宮の計画をマオに伝える。もとは浮遊惑星に棲息していたはずの生命体サーガが、百年に一度の流星群が降った夜から、山に棲みついてしまった。サーガは、人間の念や精神的負荷を餌にし、それらのかなしみと怖れが凝縮された光線を、排泄物として地中に放つのだ。
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内容に関するアピール
エンタメSFとして、
- ガール・ミーツ・ガール
- 神話と宇宙(天狗について初出の「日本書紀」で、その出現は「大きな星が東から西に流れた」とあらわされているそうです)
- 未知の場所への旅
という3つの要素を入れて、時間と空間を旅するような話を書きたいと思います。山その他の設定は自分の体験がもとになっていますが、エンタメという名にふさわしいハッピーエンドを目指します。
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