男の子が死ぬ話

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梗 概

男の子が死ぬ話

現在
――つまり“男の子”を、いつ殺すか、選べるっていうことですか?
「まあ、そうとも言えますね。穏やかな表現ではないですが」
 男子だけが集められた秘密の授業で、先生は諭すように微笑んだ。
 ぼくは“男の子”を、殺したくなんてない。

 前触れもなくヒト科の男性生殖器保持者のみ、下垂体という脳の下にぷらぷらぶら下がるように存在する内分泌器官から黄体化ホルモン(LH)が全く分泌されなくなり、二次性徴が自然発生しなくなってから、十数年が経った。そもそもの原因は依然として特定できていなかったが、安価で簡易な投薬で二次性徴を促す手法が確立されたことから、当初の社会的混乱は落ち着いていた。法整備も整い、二次性徴(「男の子」から「男性」へ)については、男の子たちが十二歳を迎えるころに公教育で一斉に案内されるようになった。実際にいつ二次性徴をむかえるかは、ある程度個々人の裁量に任せられている。

3年前
「今日は何して遊ぶ?」
 一緒に遊ぶこと自体が前提となっている台詞を掛け合い、日が暮れるまでともに過ごした幼少期。楽しかったし、幸せだった。お互いの性別が違うことは、意識してはいなかった。
(中略)
 結果的にそれから会えなくなってしまった日、最後に聞いた一言は「忘れないで」だった。絶対に忘れない、忘れるわけがない。
 直接的に、そうお願いされたわけではない。でも「変わらずあり続けること」が約束を果たすことになる。次に会えるその日まで、今と変わらぬ男の子でいようと心に誓った。
(中略)

1年後
(中略)
2年後
(中略)
3年後
(中略)
4年後
(中略)
5年後
(中略)
6年後
(中略)
7~14年後
(中略)
15年後
(中略)
 尻を出してベッドにうつ伏せになると、ほどなく「どちらにします?」と問われた。どちらでもいいです、と応える。
「じゃあ、右にしましょうか。ちょっと触りますね」
 私の尻を湿ったもので撫ぜる、その手つきには迷いがない。「痛いけれど、ちょっと我慢してくださいね。はい、そろそろ痛いですよ、痛いですよ痛いですよ……」何だそれ。行為に及ぶ際に脅すように囁きかける意図が分からな、、、、、痛い。

「はい、終わりましたー。血も出ていないですよ」
 本当にあっけない。これで“男の子”は死んでしまった。

文字数:933

内容に関するアピール

 作家・滝本竜彦は、同じ新人賞で同期デビューした米澤穂信との対談の中で、読者を泣かせる方法論について「(読者を登場人物に)感情移入させた後に、殺す」(※)と発言しました。その点に異論はないのですが、いわゆる「泣ける」エンタメって、相対的に見ると男性より女性が死ぬものが多過ぎるように思います。

 その点から本梗概のタイトルを決めました。それに沿った設定と物語を後から考えています。
(中略)の部分を実作では書きこむことで、物語に厚みを持たせたいです。


※:『ユリイカ』2007年4月号p193、青土社。

文字数:248

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