梗 概
きぐるみはぐみぐるみはぐ
気候変動により寒冷化が進んだ某国では、全身を覆う外套の着用が推奨され、国民も好んで厚い外套を頭部まで隠すように着こんでいった。まるまると膨れあがった様式が流行となり、やがて階級や年齢などによって身にまとう外套が異なるようになった。人前で肌をさらすことは、たとえ肉親のあいだであっても、あってはならない不作法というか恥辱とされた。
寒いと食糧とかエネルギーとか不足がちになるので、権力者とか富裕層と一般市民との階級対立が激しくなって、過激派の地下運動とかも盛んになる。らら寺るりるは極左グループの一員。大きなナイフで要人の外套を次々と切り裂いていく。でも状況は全然好転しないし、上流階級の人たちは何重も着こんだり金属製の外套を開発したりして運動が立ち行かなくなるし、るりるは悩む。恋人には振られるし。
で、公娼で鬱憤を晴らしたら、今度はそいつに「社会変えたいとかそういう気高い目標があるんじゃなくて、単に人を裸にして辱めるのが好きなだけなんじゃないの?」とか言われたからるりるは激怒して、公娼の外套を切り刻んだ(※この国では性交時でも衣服を脱がない風習があります)。公娼はすげえ泣き喚いたけど別に傷ひとつ負ってなくてお肌つるつる。だから試しに公娼の皮をはいで身にまとってみた。そして外に出ると、すけべそうな老人に声をかけられた。どうやらるりるは公娼に見えているらしい。老人と性交したらちゃんと快感も得られたし、身体そのものも公娼に変化しているといっても過言ではない。
で、次にるりるは党幹部の皮をはいでかぶってみた。みんな尊敬のまなざしで見てくれる。じゃあ今度は大統領の皮をはいでかぶってみよう。まずは和平交渉の名目で政府高官をおびき出して…といった地道な努力を重ねていき、るりるは遂に大統領とふたりきりになれた。で、さっそく大統領の皮をはいでみたら先客がいた。何だよせっかくがんばったのに…とか思ってると、大統領の皮を着てた人が嬉々として譲ってくれる。曰く「加齢臭がきついし大統領の仕事もめんどい」。じゃあ自分もやめとこう、と思ってるりるは中止する。
るりるが大量に要人を殺したために政府は瓦解、反政府運動もなし崩しにしぼんでいった。やることが何もなくなったるりるは、むかし自分を袖にした恋人に、他人の皮膚をかぶって性交する快感を教える。かつてない興奮。今までの風習とか全部帳消しになっちゃうほど皮かぶりセックスは大流行して、今自分が誰と交わっているのかわからない、わからないけどハッピーみたいな、まさしくアナーキーな状態に陥る。そしていつしか気候も和らぎ、某国にも春が訪れる。
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内容に関するアピール
「はぐ」は、「剥ぐ」と「hug」の両方の意味です。
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